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ジェラール・クーロン、ジャン=クロード・ゴルヴァン「古代ローマ軍の土木技術」 研究に支えられた、一人では描けない絵

『古代ローマ軍の土木技術』から、建設中の船の橋

 本書に多数の復元画を寄せる共著者で建築家・考古学者のジャン=クロード・ゴルヴァンは、「絵とはこういうもの」という思い込みを打ち砕く。水彩による平凡な構図だが、描くのは古代ローマだ。もうどこにもない世界。だが、さっきスケッチしたばかりだというように描く。

 例えば、船を並べて川に浮かべる橋を建設している絵には、小さく兵士達(たち)が描かれている。特定の個人ではない。でも、実際に「いた」と信じられる。描かれるシーンが具体的だからだ。クレーンを動かす兵士は、絶対にいた。船の上で、木材を見上げてオーライ、オーライと両手を挙げる兵士も間違いなくいた。橋を作るための高度な技術を精密にビジュアル化することで、人間をも「復元」しているのだ。豆粒ほどだけど、彼らは「いない」のではない。

 復元画のリアリティは多くの研究者の研究の積み重ねに支えられている。はるか昔の、もう「ない」世界を見ようという、惜しみない努力との「共同制作」だ。絵は、一人では描けない。彼の絵を見ているとそう感じる。=朝日新聞2022年4月16日掲載