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絵本作家・ヨシタケシンスケさんが新刊を出版 ままならぬ現実、小さな夢に救われて

ヨシタケシンスケさん

 絵本作家・ヨシタケシンスケさんの新刊『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』(白泉社)が出版された。老若男女のささやかな喜びと、ままならない現実が描かれる。

 おみくじで大吉引いたけど、よくなるイメージが浮かばないと1人孤独に飲むおじさん。スリッパをしゃぶって味わってたのに、取り上げられて泣き出す赤ちゃん……。ヨシタケさんは「小さい好奇心、小さな夢に救われて何とか毎日を乗り切ろうとする人たちを集めました」と話す。

 いいことは、探せばどこかに転がっている。「ミカンのいろがすごくきれいでなんだかすくわれたの」という場面は自身の体験から描いた。満員電車で隣に立っていた女性のバッグから、いちごが赤く輝いた。その色を目にするだけで楽になった自分に驚いた。「ちょっとしたつまずきから立ち直る材料を見つけておくといいと思うんです」

 大きな困難に直面したときも、人を救うのは小さな夢だ。中盤にある見開きページには、大人の隣で寝そべって漫画を読む子どもがいる。続いて、その子どもが大人と手をつなぎ、被災後と思われる街を歩いている。「つづきがよみたいマンガがあるの」「まちはこわれてしまったけれど」とつづる。「社会の不幸と個人の不幸は別物。すごく当たり前のことだけど、僕自身がすぐに忘れてしまう」

 「りんごかもしれない」で絵本作家デビューをしてから、今年で10年目を迎える。「僕はネガティブで理屈っぽくて常識を気にする性格。でも、常識を気にするからこそ、何が非常識かをはじき出せるようになってきた。『おもしろい』は、常識と非常識の間にあるんです」(田中瞳子)=朝日新聞2022年4月20日掲載