人類滅亡、伝染病の世界的流行、異生物襲来、などなど、パニック大好きなジャンルSFにおいて、真の魅力は、実は、史上最悪の事態をどう乗り越えるのかという、サバイバルのスキル探求ではなかろうか。
それは神頼みなどではなく、あくまで科学的思考、DIY的技術の探究、そして窮地に立たされても絶対に忘れないユーモア精神なのだ。と、本書を読んで、初心に還(かえ)った気持ちになった。
著者の第一作『火星の人』(映画化名「オデッセイ」)は忘れられない大傑作。火星に事故で取り残された植物学者が、知恵を駆使して生き延び、地球へと帰還するという奇跡のような冒険SF。映画化したくなる気持ちがわかる、驚きに満ちたサバイバル小説だった。
今回は、ひとりの地球人どころではない、人類の、というより太陽自体にとんでもない異変が生じる、というもの。トラブルの規模は桁違いだが、異変察知から、アッと驚く解決策まで、またしてもコツコツとレンガを積み重ねるように、持てる科学知識とできる技術を積み重ね、ひとりの男が見事に切り抜けて見せる。太陽救済とひとりの人物の活躍がどうつながるかは、読んでのお楽しみ。身近なエピソードから始めて次第に全貌(ぜんぼう)が鮮明になる構成は親しみやすくわくわくするような展開だ。
ふとしたことから人類を救うことになるこの主人公の活躍は、まさにSFならではの、危機対応時のポイントを絶対に外さない点にあるのだが、彼はマッチョなヒーローというより、涙もろく、子供好き。なにより子供に理屈をゼロから教えるのが好きな中学校の先生だった。この設定には、なるほど、と膝(ひざ)を打つような説得力があった。
子供とのコミュニケーションが苦にならない性質というのは、洞察力があって、異質な状況に対応する、創意工夫の達人ってことなのか。昔の恩師のことなど思い出し、ラストは、ちょっと涙ぐんでしまった。=朝日新聞2022年5月21日掲載
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小野田和子訳、早川書房・各1980円=上8刷2万5千部、下7刷2万3千部。21年12月刊。「電子書籍も好調」と担当者。