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孤独に陥った世界、100人の「連歌」 コロナ下の「自主隔離」テーマに、約50カ国の詩人がリレー

四元康祐さん(左)イオアモルプルゴさん©Radek Kobierski(右)

言葉分かち合う詩の本質鮮明に

 コロナ禍が世界中に影を落とし始めた2020年4月、ルーマニア出身の作家イオアナ・モルプルゴさんから、各国に住む盟友たちに向けたメールが送られた。「『自主隔離』をテーマにした詩のプロジェクトを計画している。あなたにも参加してほしい」。詩人の四元さんも、その招待を受け取った一人だった。

 ほどなくして、巨大な「連歌」が動き始めた。モルプルゴさんからは簡単なルールが課せられた。前の人から詩を受け取って速やかに、自らの作品を出すこと。自室で朗読する姿を撮影しておくこと……。やがて、四元さんの番も回ってきた。

 4カ月後、モルプルゴさんから再び連絡があった。約50の国々の、100人の詩人たちによる連歌が、出来上がったとの知らせだった。

 「本当に良いものになるのか半信半疑だった」という四元さんだが、完成した詩編を読んで驚いた。「他者の言葉を受け止め、自らの言葉を分かち合う詩の本質が、ありありと表れている」。すぐに、モルプルゴさんへ邦訳を申し出た。 

 《君の孤独を そうあっさり手放しちゃあいけない。 もっとざっくり切らせるんだ。》 

 14世紀ペルシャの詩人ハーフィズによる冒頭の一節に、現代を生きる詩人たちの言葉が連なる。時に他者へと呼びかけ、時に他者からの問いに応えながら。 

 《孤独、私の友よ、 君はまだこの古い家で僕と一緒に暮らしているのかい?》(アージャン・ハットさん/オランダ)

 《この孤独のなかで泳いでみよう、天使からは見えないところで。》(アルヴィン・パンさん/シンガポール) 

 モルプルゴさんの詩で、連歌は締めくくられる。

 《私の影は無数の声の海を切り裂いて飛んで行く 孤独のチョウゲンボウ その爪はしっかりと希望を鷲掴(わしづか)んでいる あなたの、そして私の子供たちに食べさせるため。》 

 チョウゲンボウはハヤブサに似た鳥で、連歌の中に幾度も顔を出す。地球上を飛び回っているかのごとく。

 「バラバラの宝石が糸で結びつき、一つの首飾りになるようだった。人々の共通の基盤に、詩というものがあるのだと改めて知った」と、四元さんは語る。四元さんらはさらに韓国の詩人8人の「返歌」も加えて、邦訳を完成させた。

人間性を抱き留める最後の楽園

 「自分以外の人が世界のどこで、どのように孤独と向き合っているのか知りたかった」と、現在は英国に住むモルプルゴさんは振り返る。海に臨む郊外の自室から、サイクロンに襲われたインドやブラック・ライブズ・マター運動が広がるさなかの米国など、詩を通じて様々な「現在」を見つめた。「100の異なる孤独、無限の交差点の上に私は立たせてもらった。最も興味深い『隔離』を経験したと感じている」

 世界はいま、コロナ禍に加えて、ウクライナに対するロシア軍の侵攻に揺れる。邦訳の刊行と時を同じくして、連歌に加わったウクライナの詩人たちへ思いをはせ、モルプルゴさんはウクライナへの連帯を示そうとメールで呼びかけた。詩人として何が出来るか、模索し続けている。

 「詩は個々の経験や苦しみを、あるいは他の表現よりもありありと映し出すと私は思う。大きな悲劇に直面したとき、詩は人間性を抱き留める最後の楽園として、求められるのだろう」(山本悠理)=朝日新聞2022年5月25日掲載