1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 「そして、ぼくは旅に出た。」など安田浩一が薦める、旅にまつわる新刊文庫3冊

「そして、ぼくは旅に出た。」など安田浩一が薦める、旅にまつわる新刊文庫3冊

安田浩一が薦める文庫この新刊!

  1. 『そして、ぼくは旅に出た。 はじまりの森 ノースウッズ』 大竹英洋著 文春文庫 1122円
  2. 『世界鉄道文化史』 小島英俊著 講談社学術文庫 1353円
  3. 『圏外編集者』 都築響一著 ちくま文庫 924円

 今回は旅に関係する新刊文庫を集めてみた。

 (1)夢にオオカミが現れた。写真家を目指す青年はオオカミを知るために足を運んだ図書館で、自然写真家、ジム・ブランデンバーグの写真集『ブラザー・ウルフ』と出会う。オオカミの一瞬をとらえた写真の美しさに圧倒された彼は、ブランデンバーグに弟子入りするため、米北部のノースウッズを目指す。事前の承諾も取らず、住所も知らず、ザックを背負って飛び出した青年の無鉄砲が、ただひたすらに眩(まぶ)しい。森を抜け、湖を越え、無事にブランデンバーグの家までたどり着くことができるのか。土門拳賞受賞の写真家が経験した若き日の冒険物語。

 (2)英リバプール~マンチェスター間の約50キロを、22両の客車を率いた蒸気機関車が走った。1830年、ここから鉄道の歴史は始まる。近代化の波に押されながら列車は走る。走りながら社会に変化をもたらし、新たな文化を生んだ。最高時速30キロで始まった鉄道は、いま、時速600キロ超のリニアに向かう。本書ではその軌跡が描かれる。駅から駅へ。まだ見ぬ風景へ。世界の鉄路へ読者を誘う。

 (3)名編集者による編集論がテーマの本書も、やはり旅カテゴリーに入れたい。目の前にあるのに、誰もが素通りしてしまうような場所、例えば金がない若者のアパート、秘宝館、場末のスナックに小さな旅を重ねると「現代」がふわっと浮かび上がる。ネットでは見えてこない社会の「圏外」。歩いて行ける旅先にも発見があるのだと教えてくれる。=朝日新聞2022年6月4日掲載