〈社会をたのしくする障害者メディア〉とある。一瞬、違和感を覚えた。ふつうは〈障害者がたのしく生きられる社会をつくる〉と宣言しそうなところだ。それが、〈社会をたのしくする〉である。〈たのしく〉なるのは障害者ではなく社会のほうなのだ。いったいどういうことだろう。たしかに誌面は明るく楽しそうではあるのだが……。
最新号の特集タイトルは「どうぞ、そのままで」。
最初の記事は印象的だ。会社員の夏目氏が、障害者の月給が1万円、と本で読んで驚くところから話は始まる。「一万円なんて月給じゃないよね」。そうして障害者の仕事をつくるため会社を辞めてパン屋を始めるのだ。やがて行き詰まるものの、その後、久遠チョコレートを立ち上げ、日本を代表するチョコレートの祭典アムール・デュ・ショコラに出展するまでに成長させる。
職場では、自閉症でブツブツ言う人がいたり、チック症で跳ねたりしている人もいるが、いいなと思ったのは、何ができるかと問うのではなく、こんなことができるのでは?と全員で工夫し仕事をつくり出しているところだ。仕事に人を合わせるより、人に応じて仕事をつくるのである。これは障害のあるなしに関係なく、普遍的なテーマではないだろうか。
第二特集では日本科学未来館の取り組みが紹介されていた。さわれる展示や、ろう・難聴者向けのコミュニケーションツール、さらには視覚障害者を誘導するスーツケースの話など、どれも斬新。なかでもAI搭載で目的地までナビしてくれるスーツケースは自分も欲しいと思ってしまった。いっそ搭乗手続きとか面倒なことも全部スーツケースのほうでやってもらいたい。なんて、いろいろと自分に引きつけて考えてしまう。
なるほど、なんとなくわかってきた。障害者にとってたのしい社会を目指せば、障害のない人にとってもたのしい社会になるということか。
連載も面白い。「小さな福祉研究所」には、美容室やカフェなど街の一角を借りて私設の図書館〈きんじょの本棚〉を展開する主婦の話が紹介されていた。返却期限はなく、どこの本棚に返してもいい。ラジオで紹介されたことで全国に広がり、なかには「家に読まない本がたくさんあるから、私も玄関先でやってみようかな」という人まで出てきているという。このコーナーでは障害者の話だけでなく、PTAなどの身近な話題が登場して興味をひく。
そのほか各界の専門家にきく「ぶっちゃけインタビュー」では皮膚科学研究者が登場。脳と皮膚の細胞は、実は機能にあまり差がないなんて書いてあって引き込まれた。
どの記事からも本誌の視野の広さがうかがえる。目指すのは障害者だけでなく誰もがたのしい社会。分けて考える必要はないのだ。=朝日新聞2022年6月4日掲載