4月25日から6月1日までの約1カ月で、言語学者・川原繁人さんの本が3冊出た。短期間の2冊はよくあるが3冊は珍しい。発行順に『言語学者、外の世界へ羽ばたく』『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』『フリースタイル言語学』。なぜこんなに一度に? 学術書でなく一般向けなので、言語学の素養はないが気合で読破に挑んだ。
最初の2冊が連載のまとめで3冊目が書き下ろし。ポケモン、日本語ラップ、プリキュアに2人の娘の言語獲得と話題は豊富だ。文体もどんどん変わっていく。そこに言語学の教育と研究がからみ、合計約800ページをめくる手はスイスイ動く。
川原さんは米国で研究し、国際的に認められて慶応義塾大にポストを得た。だが、繰り返し問う。言語学は世の中の役に立っているのかと。その真剣な危機感に対する必死の回答が、これだけの分量になったのだろう。データの分析を新たな方法に変えたことなど、研究の舞台裏を明かす誠実さにも感銘を受けた。
ただ、エピソードがかなりダブっている。一方で繰り返しの効用もあった。言語学の素人が専門用語を理解するのは一読ではつらい。最重要のキーワード「音象徴(おんしょうちょう)」は確かに覚えました。ソシュールだけが言語学者ではないのだとも。(村山正司)=朝日新聞2022年6月18日掲載