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那須圭子さん「福島菊次郎 あざなえる記憶」インタビュー  反骨の写真家は問いかける

自宅のベッドから起き上がる福島菊次郎=2010年7月、那須圭子さん撮影

「20世紀が終わるとき、死のうと思う」

 那須さんは結婚を機に東京から山口に移住。同県上関町で進む原発建設計画に反対する運動を通じ、1989年、福島と出会った。

 ある日、趣味で撮りためた写真を周囲に見せていると、福島から声をかけられた。「あなた、写真撮らない?」。原発計画に強く抵抗する祝島の住人たちの姿を、福島はカメラに収めていた。「上関原発の問題はまだ10年20年と続くのね。僕はもう70だから、そろそろ体力的に無理なの。あなた、続きをやらない?」

那須圭子さん

 その日から、那須さんのフォトジャーナリストとしての歩みが始まった。祝島をはじめ、様々な撮影現場で福島と時間を共にし、被写体に迫る彼の覚悟に触れた。

 90年代半ばのこと、福島は突然自分の棺おけを作り始めた。「20世紀が終わるとき、僕も死のうと思う」。戦争の記憶を早くも忘れ去ろうとする現代社会に、福島は絶望していた。残された時間は決して多くないのかも知れない――。那須さんは老境に入った福島の姿を撮り始めた。やがて、その数は1万枚にまで積み上がった。

死の直前「戦争、もう始まるよ」

 2015年に福島が世を去ってほどなく、那須さんは自らが撮影した福島の姿、そして間近で聞いた彼の言葉を、社会に伝えたいと考えるようになった。6年余りを経て、それは『あざなえる記憶』という一冊に結実した。

 「人間最後はウンチもぶれ(まみれ)よ。そういうの、あなた全部撮って全部発表して」

震災後の福島県・浜通りを歩く福島菊次郎=2011年9月、那須圭子さん撮影

 そう言った福島のまっすぐな目を、那須さんは今も覚えている。険しい顔で現場に立つ「反骨の写真家」の一面だけではない。床に横たわる老人の穏やかな寝顔、カートを引いてスーパーから帰る小さな背中をも、同書は収めている。

 「みんな戦争なんて始まらないって思ってるだろ。でも、もう始まるよ」。亡くなる直前に福島が発した警句を、当時どれほどの人が受け止めただろうかと、那須さんは言う。だが、2月にロシア軍がウクライナへ侵攻し、「戦争」は私たちの生活を実際に脅かしつつある。

 「世の中が雪崩を打ったように、福島さんが言っていた方向に向かっている」と那須さんは痛感する。「まるで福島さんが、この時期に本を出すことを選んだみたいだ」

 自分が撮ってきた人たちは、何も救われていないじゃないか……。そう福島が涙を流したときのことを、那須さんは振り返る。本のエピローグで、那須さんは自他に問うた。「『国』とは、私たち一人一人が集まったものであるならば、戦後一つも問題を解決しないまま、責任をうやむやにしてきたのもまた、私たち一人一人ではないのか」

 福島が残したものの大きさを、那須さんはいま改めて、見つめている。(山本悠理)=朝日新聞2022年6月22日掲載