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逢坂冬馬さんに「参りました」と思わせた「機龍警察」

『機龍警察』(早川書房)

 人生ベスト小説は、と聞かれると答えは難しいですが、今一番楽しんでいる小説シリーズは、と聞かれたら迷いなく答えられます。月村了衛先生の「機龍警察」シリーズです。

 2010年に発売された第1作『機龍警察』を買ったのは2013年頃。実質的にはパラレルな現代である「至近未来」に機甲兵装という二足歩行型戦闘ロボットが投入された世界観、警察機構のリアルな描写と銃器に対するディティールは自分好みであり、大変面白く読みましたが、そこからしばらく続編を買うことはありませんでした。「面白いけど登場人物が多くてなんだか難しいな……」というのが正直な感想であり、しばらくは間が開いていたのです。

 しかし2年後、ツイッターをしていると圧倒的に押し寄せるシリーズ絶賛の声に背を押され、第2作「自爆条項」を読んだことによって僕の運命が変わりました。

 鈴石緑、ライザ・ラードナー、姿俊之、ユーリ・オズノフ、宮近浩二、城木貴彦、そして沖津旬一郎。一巻で明らかにされた基礎的な設定と、そこに足場を置いて生きる登場人物たちの活き活きとした姿はそのままに、彼らは北部アイルランドのテロリスト集団の日本襲来を軸として押し寄せるダイナミックな物語の波を乗り切ります。その圧倒的な没入感と求心力。一行の無駄も無く全てが物語に昇華されてゆく設定と、予想を裏切りながら思わぬところで真意を発揮する伏線の数々。「参りました」と読後に思った一冊です。

 そういうわけで感嘆しつつ失礼ながらも「これは最早シリーズの頂点なのでは?」と思いながら続けて読んだ「暗黒市場」「未亡旅団」はいずれも信じがたいほどの完成度を持って自分の心を掴み、そしてシリーズの進展に連れて数の多い登場人物たちはその背景を掘り下げられてゆくため、最早彼らを他人とは思えないようになってしまいました。その後の「狼眼殺手」と「白骨街道」はミステリマガジン(隔月発売)の連載であったため、掲載誌を買って購読しましたが、2カ月に一度の楽しみを味わいつつも、このシリーズは毎回登場人物が崖っぷちまで追い込まれてゆくので、後半にさしかかると大抵誰かが絶体絶命のまま2カ月待つことにになり、心が大変でした。

 物語が進行するにつけてシリーズは急速に「日本の腐敗」をテーマとして取り入れ、同時代性を増してゆく様もスリリングです。
 「機龍警察」シリーズがくれた思い出は作品のみに留まりません。ファンの方々はインターネット上での交流が活発なので、オンラインの読書会にも参加しましたし、現在までのシリーズ最新作「狼眼殺手」が始まると決まった直後には、人付き合いの苦手な僕にはめずらしく「オフ会」に出かけて読者同士の交流を楽しみました。そうした場で得られた新たな作品との出会いも数知れず、自分にとって全ては得がたい財産となりました。

 「機龍警察」を読み始めた頃、僕は既に小説家を志していましたが、「冒険小説」というジャンルを意識し、志向したのは紛れもなく本作との出会いがきっかけであり、実際戦争冒険小説でもある『同志少女よ、敵を撃て』でアガサ・クリスティー賞を受賞し、小説家デビューを果たすことができました。

 そういうわけで2021年のある日。受賞決定後初めて早川書房への挨拶に赴きました。
 一階の喫茶店に月村了衛先生がいらっしゃいました。
 この際に祝福の言葉と共にいただいた『機龍警察 白骨街道』のサイン本は我が家で家宝になっております。あまりの幸運に(ひょっとして、僕は来週までの命なのでは……?)等と思いましたが幸いにもそういうことはありませんでした。

 というわけであらゆる幸せを授けてくれた「機龍警察」シリーズ、まだお読みになっていない方は是非お読みください。第1作は「プロローグ」的な面もあるので、まずは「白骨街道」までお読みいただくことをおすすめします!