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しおたにまみこさん「たまごのはなし」インタビュー 傍若無人なキャラクターにスカッ

文:石井広子

「苦み」のあるキャラクター

――主人公はコロンとしたフォルムに細い手足のたまご。小さな口と鼻、重たい瞼の瞳が際立つ面持ちは、まるで人間のよう。そんなたまごが突然目を覚まし、マシュマロに出会って探検に出かける。3章からなる『たまごのはなし』(ブロンズ新社)は、絵本作家・しおたにまみこさんの初の絵童話だ。2021年に発行されて以来、1年間で19刷りを記録。たまごが言い放つちょっぴり毒のある言葉とシュールな行動にハッと驚かされる。

 実は私、子どもの頃から長い文章を書くのが苦手で……。でもたまご自身が話している体裁にしたら書きやすいのではないかと思い、一人称で書きました。するといつのまにか「ちゃんときいておくんだよ」とか自然と上から目線になっていたんです(笑)。子どもに向けて絵本を作っていたつもりでしたが、想像以上に多くの方に手に取ってもらえたのは、大人にも受け入れてもらえたからではと思っています。話題の本のコーナーや文芸書の棚に置いてくださった書店もあったようです。

『たまごのはなし』(ブロンズ新社)より

――たまごが家にある様々なものたちと出会い、刺激的な展開が繰り広げられる。たとえば、口うるさい植木鉢には口にテープを貼ったまま去ってしまう。たまごとマシュマロを馬鹿にした時計には、その仕返しに電池を抜いて動けなくしてしまう。

 話を作っているときは残酷だとは思っていなかったんですが、まるで悪い妖精みたいですよね。私自身、子どものころは話すのが苦手で、姉から「主語が抜けていて何を言っているかわからない。話を聞きたくない」と言われても、言い返せなかった苦い思い出があります。私の姪たちも、母親から怒られてもなかなか言い返せない。だから物語の中ではっきりと言い返し、仕返しするということは子どもたちにとってスカッとすることなんじゃないかなという気がしたんです。

 思い起こしてみれば『カチカチ山』など、子どものときの記憶に残っている絵本って結構えぐいですよね。ウサギがタヌキの背中に火をつけて大やけどを負わせるなんて。でもその方が印象に残りやすい。たまごもそんな苦みのあるキャラクターにしようと思いましたが、昔話の残酷さに比べたらマイルドなはず。無邪気で、空気が読めないだけの傍若無人なキャラクターにして、悪意でやっているわけではないという存在にしました。

『たまごのはなし』(ブロンズ新社)より

 ただ、そういう子が一人ぼっちだと可哀そうだから、たまごの理解者でもあり、でもそこまで仲良くはないマシュマロを相棒にしました。たまごを諫めているようで止めようともしない。兄弟に近い関係かな。そんなたまごとマシュマロがかぶっているお揃いの帽子は、実は一緒に飴の包み紙で作ったものなんです。でも誰からも気づかれないという虚しさったら……。

アニメ業界から絵本作家へ

――マシュマロが「じぶんがかんがえていることは、はなさなければあいてにはほとんどつたわらないんだって」とたまごに教える場面。別のページの、たまごがマシュマロに嫌なことを言われ、「おなかのあたりがむずむずしはじめた。たぶんきみがずれたんだとおもう」という場面には、しおたにさん自身の経験が反映されている。

 大学の時、教授に伝わっていると思っていたことが全く伝わっていなかったことがあって。イメージを共有したいけどアウトプットしないと相手には伝わらない、っていうことを表現しました。「きみがずれる」は、私は緊張すると胃が痛くなったり、ストレスがたまっている時や怖い時も、お腹からからすっと抜けるような不快感があったりするんです。感情と胃が直結している感覚ですね。そんな胃の不快感を表現しています。ストレスを発散するとき、私は口に出すタイプですが、たまごはどちらかというと行動を起こすタイプです。

しおたにさんのアトリエ(本人提供)

――絵本作家になるという背景には、姉の存在が大きかったというしおたにさん。美大出身ではあるものの、実はそもそも絵本を描いてみたいという気持ちはなかったという。大学卒業後は1年間、アニメーションの背景制作会社に勤務したが、すぐ辞めてしまったと振り返る。

 その理由としては、絵を描く作業といっても自分の思う通りに描けるわけではないことでした。退職後、姉から出版社への持ち込みや、コンテストへの応募を勧められ、東京のピンポイントギャラリーでの絵本コンペに出品しました。当時の入賞作品が『やねうらおばけ』。その展示を見学しに訪れた編集者が出版の話をくれたのですが、最初に言われたのが「嬉しい、悲しいとは書かず、行動を書け」ということでした。感情表現を行動に落とし込んでいくのが難しかったですね。

自分の悩みが作品に

――『たまごのはなし』が生まれたきっかけは、インスタグラムに「ハンプティ・ダンプティ」(イギリスの童謡のキャラクター)の絵を描いて載せていたこと。威圧感のあるたまごで、それに注目した編集者から声をかけられ、絵童話の制作を勧められる。

 私が小説好きなこともあって、たまごが周りからウザがられるようなユニークな物語の絵本を作ろうと思いついたんです。お話を書いては絵を描いて、という繰り返しで制作しているんですが、絵を結構描き直した記憶がありますね。何かしら不満を残しながら、一旦は描き終わるんです。そして壁に貼って粗探しをします。

 たまごがナッツたちにはちみつをかけている場面も、最初は背景に可愛いキッチングッズがいっぱい並んでいたんですが、結局何も置かずすっきりとさせました。また光が蛍光灯のような描き方だったのを、もっとやわらかな光、昼間の自然光のような表現にしました。埃が舞っているようなふわっとした情景が表せると思ったんです。そんな静謐な世界観を表すツールが鉛筆です。塗りつぶすときと細かいものを描くときで、HBから8Bを使い分けているんです。

『たまごのはなし』(ブロンズ新社)より

――『たまごのはなし』は2021年、世界最大規模の絵本原画コンクール「第28回ブラチスラバ世界絵本原画展」で第3席の「金牌」に選ばれた。

 半世紀以上の歴史がある世界最大規模のコンクールで、まさか自分が賞をもらえるとは思っていなかったのでとても嬉しいです。現在は、『たまごのはなし』の第2弾を進めているところで、23年2月にイチジクをモチーフにした絵本の出版を予定しています。

 こうして絵本作りをしていて思うのは、結局普段自分の考えていることや悩んでいることから作品が出来上がるということ。家族の話や日常の失敗談などプライベートな話が作品ににじみ出てしまうのはちょっと恥ずかしいですが、自分に素直に作るしかないと思っています。これからも子どもに楽しんでもらえる絵本を作っていきたいですね。