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真夏の出来事 柴崎友香

 コロナ禍以降に広がったものに「置き配」があり、私もときどき利用する。配達の人の手間が省けるかなと思うし、宅配便を利用することが多くて、在宅だけどちょっと買い物に出たいことやすぐに応答できない状態があるかもしれないと思うときに、可能なものなら「置き配」にすることがある。

 真夏の午後、スマホに「お届けが完了しました」と箱が置かれた画像つきで通知が届いた。外に出て確認したが、箱はない。画像がうちの家ではなさそうである。指定時間に届かないなどは気にしないのだが、別の家に置いてあるとなるとさすがに確認しなくてはならない。カスタマーサービスに電話をかけて事情を話して十分後、ドライバーさんから電話があった。詳細は書けないが私の不注意も含めて行き違いが生じても仕方ない状況が重なっており、その声には困惑が感じられた。それはそうやんね、世間は夏休みの猛暑のまっただ中に面倒なことになり申し訳ない、と思いつつ、画像が別の家でと説明した。しばらくして荷物を持ってきてくれたのは電話とは別の人と思(おぼ)しきとても若い男性で、新人さんらしい。何度も謝ってくれて恐縮した。

 アメリカ中西部に三か月滞在したとき、通販を注文すると届くのに二週間ぐらいかかった。時間指定などあるはずもなく、何日に届くかわからないし、後半は滞在中に間に合うか気をもんだ。送料も高かった。荷物が届くのは当たり前じゃないねんな、と身にしみたし、日本の宅配関連の仕事の大変さに思いが至った。

 彼があのあと怒られていませんように、と気になって仕方なかった。と書くと、やさしいんですねというようなことを言われることがあるが、というよりも、怒られる場面がつい浮かんできてしまって自分がつらいのもある。私が勝手に想像したのは失礼な話でもあり、電話で話した先輩か上司の人は次からは気をつけてと励ましたかもしれない。そちらの場面を想像しよう。=朝日新聞2022年9月14日掲載