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「衡平な大学入試を求めて」書評 どんな学生を卒業させたいのか

評者: 石原安野 / 朝⽇新聞掲載:2022年10月15日
衡平な大学入試を求めて カリフォルニア大学とアファーマティブ・アクション 著者:ジョン・A.ダグラス 出版社:九州大学出版会 ジャンル:教育・学習参考書

ISBN: 9784798503356
発売⽇: 2022/07/23
サイズ: 21cm/439p

「衡平な大学入試を求めて」 [著]ジョン・オーブリー・ダグラス

 米国のハーバードやイエールといった名門私立大学は選抜性(入学判定基準)が極めて高く、多面的指標で全国から学生を集める。一方、名門州立大学であるカリフォルニア大学(UC)は高い選抜性を持ちつつも「州の全域、全人口区分が平等な恩恵を受けること」を原則とする。
 1868年創立のUCは学生数や入学判定のやり方を含む大学運営で高度な自治を与えられた。当時の学生数は200人未満。現在はバークリー校やロサンゼルス校など10のキャンパスに、21万を超える学生を擁する巨大研究大学システムだ。その巨大システムをもってしても受け入れきれない入学希望者がいて、判定基準を必要とする。本書はその基準の紆余(うよ)曲折を4部(大学設立の経緯、人口増加期、アファーマティブ・アクションと標準テストに揺れる90年代、及び現在の課題)に分けてたどる。
 求められるのは、大学の成績や卒業率と相関を持つ指標だ。大学で実績を残すのは、入学前の試験で点数の高かった者か。あるいは高校で良い成績を取れた学生なのか。それとも選抜性の高い私立大学が採用しているような、多面的な指標で計るべきか。
 本書で描かれるもう一つの軸が、州内の平等をうたう州立大学は学内の人種比率を州のものに近づけるべきかという議論だ。合格したマイノリティーよりも高い学業的指標を持つ学生を不合格とすることは憲法違反なのか。時の政権、学長、州の議員たちにより大きく揺れ動く。
 入学判定基準は、各国、各大学が、どのような学生を卒業させたいかという考えによって異なり、一律の指標が全ての大学の最適解にはならない。いわんや、入るのは難しいが出るのは簡単などという評判を持つ日本からは、入試改革の議論は蜃気楼(しんきろう)を目指す旅のようにも思える。本書の持つ熱量に圧倒されると同時に、薄ら寒い思いもしたのであった。
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John Aubrey Douglass 米カリフォルニア大バークリー校高等教育センターシニア・リサーチフェロー、研究教授(公共政策・高等教育)。