「ミャンマー現代史」書評 混乱・抵抗の歩み 他人事でない
ISBN: 9784004319399
発売⽇: 2022/08/22
サイズ: 18cm/281,17p
「ミャンマー現代史」 [著]中西嘉宏
19世紀にイギリスとの3度の戦争で英領インドの東端に組み込まれ、1942年には日本軍が占領し、大戦後の48年に独立したミャンマーは、度々の軍のクーデターによる混乱の末、2016年3月、ようやくアウンサンスーチーを首班とする民主制に行き着いた。
と思いきや、21年2月にクーデターに成功し彼女を幽閉した軍は市民に向け実弾を発砲し強硬化した。現在もなお民主派の軍に対する抵抗は続いている。
日本から5千キロ近く離れたこの国を知ることは、日本の思想と行動を根幹から問うことでもある。他人事(ひとごと)では全くない、たえず自己を問われるような現代史叙述だと感じた。
たとえば、この国の政治を担ってきた軍と日本は、紆余(うよ)曲折はあるとはいえ経済的に深い関係を結んできた。軍という幾分(いくぶん)世間離れした暴力装置の政治がこの国の停滞の一因だったのだが、それに日本は間接的にでも関わっていたことになる。また、現在のロヒンギャ虐殺の疑いがある状況であっても批判をしながら国際社会につなぎ留めているのは、本書の分析によれば中国の海への勢力拡大に自由主義圏の諸国が警戒しているからである。
また、ミャンマーは大国に挟まれた人口約5千万人規模の国家であり、その意味ではウクライナや台湾や日本が置かれている立場と大きく変わらない。さらに、ミャンマーはユーゴスラビアをお手本に非同盟外交を一時期まで続けていたが、ユーゴと同様に多様な民族を抱えていた。ビルマ人が7割近く占めるが、135の土着民族を抱え、軍は少数民族の武装組織との紛争に明け暮れてきた。
ムスリムのロヒンギャを国は土着民族として認めず、軍のロヒンギャの虐殺をハーグの法廷で事実上擁護したスーチーの姿は、どこかで彼女の運動に期待をかけていた日本の人びとには衝撃だったが、その歴史的背景も本書を通じて理解することができる。
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なかにし・よしひろ 1977年生まれ。京都大准教授。2021年に『ロヒンギャ危機』でサントリー学芸賞。