「近代中国の新疆統治」書評 受け継がれた「中華」の統合原理
ISBN: 9784766428414
発売⽇: 2022/09/17
サイズ: 22cm/233,17p
「近代中国の新疆統治」 [著]木下恵二
「華夷(かい)秩序」(文明と非文明、礼法と野蛮の区別)と「夷狄(いてき)の帰義」(夷狄は教化されて服従し中華の一員となる可能性を有し、またそうなるべきだという観念)に基づく「中華」の世界。それが連綿と受け継がれ、近代を迎えて誕生した「中国」の多民族統合はどのように再編されたのか。
本書は帝国の周縁であった「新疆」(新しい支配地域)の中核による統合を、(1)国民的統合(2)民族自決的統合(3)植民地主義的統合を理念型として分析する。歴史研究だが、1990年代以降の民族問題の源流をも明らかにする視座が随所にちりばめられている。
最初に取り上げる新疆都督・楊増新による統治(1912~28年)は、中国、トルコ、ロシア帝国という東西のナショナリズムに翻弄(ほんろう)される中で安定を優先し、秩序を維持しようとしてテュルク系住民の教育運動を弾圧し、彼らを反中国へ向かわせた。
ナショナリズムによる反乱が続発した30年代前半に権力を握った盛世才は、独裁体制下で各民族の民族意識を高めるソ連型民族政策を導入し、一種の「民族自治」を生み出した。さらに新疆を抗日戦争の後方基地に位置付け、ソ連と共に戦うシナリオさえ描いたが、統制を強化し植民地主義的統合へと路線を変えた。
44年、国民党政権の直接統治開始時に省政府主席だった呉忠信が考える「非漢族の漢族への自然な同化」も植民地主義的統合へ行き着く可能性が高かった。だが後任の張治中は民族自決的統合を望み、現実的選択で国民的統合を目指した。
50年代の共産党政権の新疆統治も「先進的な」漢族による「代行主義」を主とし、今に至っている。
著者の「肯定や否定のためではなく」「末永く付き合っていくため」、中国という隣国を理解しようとし続けなければならないという姿勢に共鳴するが、国民国家性と帝国性が相互に浸透し矛盾する中国の統合原理と向き合うのは過酷だ。
◇
きのした・けいじ 1971年生まれ。常磐大准教授(中国近現代政治史)。共著に『改訂版 岐路に立つ日中関係』。