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中北浩爾「日本共産党」 イメージと裏腹、変化の歴史

 日本共産党ほどイメージが先行する政党もなかなかないだろう。「共産主義」や「共産党」と聞くだけでおどろおどろしく、縁遠く感じる人も少なくない。

 その強力なイメージは、日本政治の風景を裏から規定してきた。政財界における共産主義への警戒感は自民党への支持に結びついてきた。旧統一教会と自民党との繋(つな)がりもその一端に過ぎない。非自民勢力でも、昨今の野党共闘に見られるように、日本共産党が結集に加われないのみならず、そのイメージが他党を分断することもある。

 ただし、その先行するイメージとは裏腹に、日本共産党の実態がどこまで知られているか、心許(こころもと)ない。非合法時代に限らず機密が多く、また国際的な連関も多いだけに、バランスのとれた入門書もなかったから、仕方ないといえば仕方ないのだが。

 そんななか、社会党を中心にした研究からスタートして、近年、自民党や自公政権について定評ある新書を刊行してきた政治史家が、結党100年に合わせて刊行したのが本書である。

 最新の研究も踏まえて日本共産党の歴史を簡潔にまとめた本書だが、それでも440ページと分厚いうえに密度も濃い。ヒット作とはいっても積読(つんどく)になっている人も少なくないだろう。

 それでも、本書を紐解(ひもと)けば、「共産主義」とか「共産党」とかいった言葉で一徹したイメージで語られる日本共産党が大きく変化してきたことに驚かされるだろう。今では護憲を謳(うた)っている党も、戦後長く日本国憲法を否定してきたのだから。そこには党内闘争や、ソ連共産党や中国共産党などの国際的な権威に翻弄(ほんろう)された歴史がある。これまで変化してきたのだから変化は可能だ、というのが著者のメッセージでもあろう。

 こうして、本書は日本共産党の歩みを丹念に追うことで、そのイメージを揺るがす。どういうかたちであれ、「共産党だから」と思考停止しないために。現代政治に関心を持つ人こそ手に取るべきだ。=朝日新聞2022年11月19日掲載

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 中公新書・1210円=4刷4万3千部。5月刊。担当者は「読者は政治に興味のある層だけでなく、歴史に関心のある人も。ニュートラルな視点が受け入れられているようだ」。