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「生き物をうさがみそーれー」書評 昔からの自然を食べて見つめる

評者: 石原安野 / 朝⽇新聞掲載:2022年12月03日
生き物をうさがみそーれー 沖縄・奄美おじいおばあの食物誌 著者:盛口 満 出版社:八坂書房 ジャンル:食・料理

ISBN: 9784896943351
発売⽇: 2022/10/25
サイズ: 19cm/283p

「生き物をうさがみそーれー」 [著]盛口満

 「うさがみそーれー」は沖縄の言葉で「召し上がって下さい」を意味し、本書にはひと昔前の琉球の島にあった様々な料理が紹介されている。しかし、細かいレシピが載っているわけではない。意外な食材が、いかに食べられてきたのか。お年寄りや先達への聞き取りから探り、記録する。食材は、謎のキノコ(呼び名が集落ごとにいろいろで判別が難しい)や貝から、カタツムリにトカゲ、果てはオオコウモリなんていうものまで。
 奄美、沖縄、宮古、八重山を含む琉球列島は多くの島があり、島や地域で食材も文化も異なっていた。今ではサトウキビ栽培のイメージが強い沖縄だが、田んぼが急減したのは1960年代以降である。22年から55年生まれの「うとぅすい」(お年寄り)から様々な話を引き出すキーワードが「昔、田んぼがあった頃の話を聞かせてください」だというのが印象的だ。当時はマラリアを避けるためにわざわざ集落から離れた場所に田んぼをつくり、島によっては馬や船でその世話に通っていた。その日々の遠足で食材も見つける。季節の食べ物は、農業や行事料理として生活と密接に結びつく。
 著者はかつては中高一貫校の理科教員で、現在は沖縄の大学で理科教育を教える。沖縄の食文化を記録する時に考えるのは、地元沖縄の都市圏出身で、自然は体感するよりユーチューブやテレビなどから情報を得てきた学生のことだ。小学校の先生になるかもしれない学生たち。地元に昔からある自然を、食べるという日常の行動で見つめ直す。といっても、堅苦しいことは抜きだ。えっ、そんなものが食べられるの? 意外とおいしいかも~などと思わせられたら大成功。それは身近な自然に好奇心が湧いてきた証拠だ。
 うとぅすいと若者、琉球とヤマト(本土)、自然と人間。分断が進んでいるようにも見える物事を著者がコミュニケーターとなりつないでいく。
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もりぐち・みつる 1962年生まれ。沖縄大教授。中学・高校の理科教員を経て沖縄に移住。著書多数。