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阿刀田高さん「小説作法の奥義」 短編の名手、アイデアの源はどこに? 幼少期から探るエッセー集

阿刀田高さん

 短編小説の名手、阿刀田高さんが『小説作法の奥義』(新潮社)を出した。60年に及ぶ文筆生活を振り返りながら、自らの発想の源を探るエッセー集だ。ロングセラーとなった「知っていますか」シリーズの新作2編も収められている。

 「小説作法の本にはしばしば、たくさん本を読んだから作家になったと書いてあります。でも、作家の能力が花開いた理由を考えるにあたっては、読書に一生懸命になった動機を探る方が大事ではないか。そこで幼少期からの記憶を書いてみようと思ったわけです」

 少年期に父親の本棚の「落語全集」を精読した話や、それにさかのぼる幼少期の言葉遊びへの興味、結核の療養期に外国の短編集を乱読した日々から、作家デビュー後の自作のアイデアの発想法まで、人生の節目節目の記憶が次々とつづられていく。しばしば言及されるのは短編小説への美意識だ。こんな風に。

 〈短編小説は、シャレた雰囲気や知性のきらめきを提示するスタイルの表現だ。かっちりとした構造と技巧の冴(さ)えが欠かせない〉

 「内容はいいのに、だらしない短編というのがあります。短編は珠玉であってほしいから、弱点があれば徹底的に磨き直してほしいし、少しでも形式美がついているものであってほしいと思いますね」

 そんな形式美への愛着が表れているのが、新たに書き下ろした「知っていますか」の2編。中島敦に短編の極意を感じ、ラシーヌの劇作に形式美の神髄をみる。「知っていますか」シリーズといえば、ギリシャ神話に始まり、旧約・新約聖書やコーランなど、古典をわかりやすく紹介したエッセー集。いわば名作の要約だが、近年の「ファスト映画」をはじめ、ダイジェストはとにかく評判が悪い。なぜロングセラーになったのだろう。

 「私たちはダイジェストの世界に生きているんです。何かを説明する際には要約して伝える。新聞記事もそうですよね。私はダイジェストは創作だと思います。コピー機で縮小するように縮めたものがいいわけではない。要約する人の判断が強く反映されていて、それが的確であると認められれば一つの価値を持つ」

 本作には、「二人の妻を愛した男」「趣味を持つ女」といった代表的な短編のダイジェストも随所にちりばめられている。はからずも「阿刀田高を知っていますか」と呼びかけているかのように。(野波健祐)=朝日新聞2023年1月11日