絵本ナビ編集長おすすめの新刊絵本11冊は…? 「NEXTプラチナブック」(2025年5月選定)

【この記事で紹介する絵本】
女の子がかごを持って出かけたのは、朝もやの残る森の中。からだいっぱいに朝の空気をすいこみ、お気に入りの場所できいちごを摘みながら、女の子は目をつむって夜の森のことを考えるのです。夜になったらこの森は、鳥たちは、動物たちは……?
【編集長のおすすめポイント】
小さな森がうつりこむ朝露を見つけたり、鳥たちのおしゃべりに耳をかたむけたり、ギギギと風に揺れるトウヒと一緒に体を揺らしてみたり。五感を使って散歩を味わう女の子の姿は、まるで森と対話をしているよう。森が生活の一部になるって、こんな感じなのでしょうか。怖いばかりと思っていた夜の森だって、女の子の感性を通してみれば、優しく魅力的な場所に。「いつか自分も……」心の中に憧れの気持ちが生まれてくるような一冊です。
ガマが目にしたのは、激しく流れ落ちる水めがけて突進していくイワナの姿。くり返し滝を登ろうとしては、半分も行かずして落ちてくるのです。挑戦し続けるイワナに呆れ、怒りさえ覚えていたガマですが、その心はいつしか憧れに変わり、好きになっていきます。そしてある大嵐の日、ついに……。
【編集長のおすすめポイント】
未知の世界を見るためには、ひたむきな努力を苦ともせず、周りからの言葉も意に介せず、ついには一歩先へと踏み出していくイワナ。そのイワナの存在から目が離せず、心を振り回されながらも憧れの対象となっていき、ついにはその後を追っていくガマ。進んだ道の先で待っているのはたくましく成長した「あたらしい自分」。物語にはまだまだ続きがあるのです。
ゆさゆさのびのび、青々と茂る葉っぱの中に見え隠れしているのは真っ赤なリンゴ。つやつやとした表面、手を伸ばせばつかめそうな立体感、しゃりしゃりと皮をむけば全く違う表情があらわれて。じっと見れば見るほど細かい筋や模様、毛の一本一本まで浮かびあがってくる不思議な感覚。リアルに描かれたくだものに、思わず手を伸ばしてさわりたくなるのです。
【編集長のおすすめポイント】
赤ちゃんの目から見ると、木にぶらさがっていたり、葉っぱに見え隠れするくだものは、ぼんやりとしか把握できないのかもしれません。けれど、それも本当のくだものの姿ですよね。そこから目の前にごろんとあらわれた姿も、色鮮やかな果実を見せている姿も、もちろん本当のくだものです。見ればその味が想像できるようになり、それが自分の大好物の食べ物だと発見し、うっとりと眺めながら手をそえるようになるまで、この絵本をじっくりゆっくり味わい続けてみてくださいね。
1日が過ぎるのはあっというま……と大人たちは言うけれど。子どもにはそんな感覚ちっともわからない。すいちゃんの1日だってほら、こんなに長くて忙しい!?「こどもの視点ラボ」の研究の1つから生まれた定点観測写真絵本。
【編集長のおすすめポイント】
大人にとって公園に行ったことは「ひとつのイベント」として記憶するけれど、子どもにとっては、そこで何をやったのかという「たくさんのイベント」として記憶をしていくとのこと。確かに行動を一つ一つにわけていくと、まったく違う景色が思い浮かんでくるのです。子どもの視点で時間を考えてみることは、大人にとっても発見にあふれている予感がします。そんなことを考えていると、むやみに「早くしなさい!」「急ぎなさい!」なんて言えなくなるかもしれませんね。
明日は遠足。朝が早いのに、なかなか眠れないぼく。横で寝ているママに助けを求めると、羊を数えるといつのまにか眠れるのだと言う。それって本当? 羊が1匹、2匹、…108匹、376匹! すると突然地面がかたむいて、ぼくが数えに数えた羊たちは、トンネルを抜けて……。
【編集長のおすすめポイント】
子どもにとって「眠りたいのに眠れない」というのは、一大事。だからこそ、一生懸命数えちゃいますよね。その結果「ぼく」の頭の中に広がる景色を、のぞくことができちゃうのがこの絵本。羊の数が多ければ多いほど、その数を処理しようとして登場する奇天烈なシステムを見れば見るほど、「ぼく」の誠実さが伝わってきて愛おしくなってしまうのです。最後まで頭に浮かんでいるのは「羊」と「ねる」の文字。どうか明日は気持ちの良い朝を迎えていますように!
あっちからも、こっちからも、こけしがぞろぞろ。さあさ、とことこ出発だ。新幹線に乗りこみ、こけし丸で海を渡り、こけききゅうで空からも。日本全国のこけしたちがぞろぞろ集まってくるここは「湯のまち」。そう、今日は特別な……!?
【編集長のおすすめポイント】
ひと目見たら忘れることのできない「こけし」は、温泉街のおみやげとして誕生した木の人形なのだそう。家の棚に飾られていたり、お店にずらっと並べられていたり、いつもじっとしている印象です。けれど、こけしたちが生き生きと歩き回るとしたら……想像もしたことなかったけれど、こんなにも愛嬌があることにびっくりです。団体になるとさらに可愛い。ハマってしまいそうで困ります。次は何が動き出すのでしょう。期待している自分がいるのです。
山の入り口。女の子は十数えるまでには帰ろうと決め、足を一歩踏み入れる。そこはぽーんぽこやま。緑の葉っぱが生い茂り、あちらこちらに伸び放題の枝や根っこ。小さな生き物たちも見えています。気がつけばぐるぐるどこかへ落ちていき、なんだかわからないままあっちへこっちへ飛んでいき、大量のハチに出くわして!さらにさらに!?
【編集長のおすすめポイント】
こんもり丸く、深い緑に覆われた山は、遠くから見ていても、なんだか生きているような、動いているような。自分はこの山に歓迎されているのかな、されていないのかな。絵本の中の出来事は、十数えている間のほんのひと時。それなのに、信じられないほど濃密な時間が流れていて。ちょっと怖いけれど、それでも好奇心をくすぐられてしまう。そんな山に対する気持ちのあらわれの一つなのかもしれません。私もちょっとだけ、踏みこんでみようかな……。
おとうさんと地下鉄に乗って出かけます。電車は満員。ペニーはおとうさんとしっかり手をつなぎます。……あれ? 人と人のすきまから見えるのは、しましまのしっぽ!吊革につかまっているのは、どう見たって、トラのまえあし!? けれど、おとうさんに言っても……。
【編集長のおすすめポイント】
雨の日の地下鉄は、なんだかちょっと特別。傘をとじ、しずくがぽたんと落ちた時に「ガガガガガガガガガ!」と大きな音をさせてホームに入ってくる電車。満員の車内は熱気がこもっているみたいで、ちょっと落ちつかない。そんな時にペニーが目にしたのは、トラの手! それは本物? それとも勘違い? どっちだっていいですよね。だって、忘れられない特別で素敵な出会いがあったことは間違いないのですから。「ガガガ ガーオーッ!」もう地下鉄で大きな音がしたって、怖がらないですむ子が増えそうです。
ある日、1ぴきのことりがやってきて、ぼくの手からごはんを食べたよ。「つい つい つい。」。すると、次の日もまたやってきてあさごはんを待っている。2ひきのネズミが仲間入り。さらに次の日には4ひきのリスも仲間入り。ついついつい、ぽりぽりぽり、こりこりこり。さらに8ぴきのオオカミ、16とうのゾウ、はらぺこ仲間が倍々にどんどん増えて、とうとう255ひきに!
【編集長のおすすめポイント】
みんなと一緒に朝ごはんを食べるシンプルなお話だけれど、子どもたちを夢中にさせるたくさんの要素がつまっているこの絵本。ことりはどんな朝ごはんが嬉しいのかな。ネズミたちはどんな音をさせて食べるのかな。リスやオオカミはみんなと仲良くなれるのかな。ゾウさんの食べ方は? 1ぴき、2ひき、4ひき、8ぴき…次の数は? ぼくが一番嬉しい朝ごはんは!? この優しい物語を何度でも繰り返して楽しんでくださいね。
ある町に住む風変りなどろぼう、ジャンボリが盗むもの。それはいったいなんでしょう? 答えは「てがみのたね」。みんなの家のごみ箱にひっそりと捨てられたそれらは、誰かに手紙を出そうと何度も書いた下書きや、出すのをやめてしまったもの。そこには、みんなの「はだかんぼうの きもち」がつづられているのだと、ジャンボリは思うのです。けれどある日、事件は起こります……。
【編集長のおすすめポイント】
そういえば最近書いた手紙は……家を出る時の息子への伝言くらい? それでも何度か失敗しては捨てているはず。あの時はなんでやめたのかな、大した内容じゃないのにね。もっと思い返せば子どもの頃、母が思いつきでたまに書いてくれた伝言メモが嬉しくて仕方がなかったから、私もたまに息子に書いていたのでした。こんな風に、渡せた手紙のまわりには、思っている以上に色々な思いや出来事が重なっているのかと思うと、世界がまたちょっと違って見えてくるのです。
野菜畑の下で暮らす女性発明家の野ネズミ。ある日、目にしたのは大きなネコのような顔が描かれた切手。こんな動物が本当にいるのだろうか……知りたくなった野ネズミは、外の世界へ出ていきます。やがて、野ネズミは大西洋横断を果たしたというパイロットに出会い、自分も飛行機で世界一周をしたいと考えるようになり……。
【編集長のおすすめポイント】
空を飛びたい一心で飛行機を完成させた野ネズミを待ち受けていたのは、他の野ネズミたちからの心ない言葉と仕打ち。そんな逆風をものともせず、自分を貫きつづける主人公。何度も苦境に立たされる中、軽やかに問題を乗りこえていく姿は、時代を超えて、子どもたちに憧れの気持ちと希望を抱かせることでしょう。
絵本ナビ編集長がおすすめする「NEXTプラチナブック11選」はいかがでしたでしょうか。対象年齢も、あつかっているテーマもさまざま。気になった絵本があったら、ぜひ手にとってみてくださいね。絵本ナビ「プラチナブック」連載ページへ
【好書好日の記事から】
絵本ナビ編集長・磯崎園子さん「はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで」インタビュー 絵本と年齢の関係とは?