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枯れることを知らない2人の往復書簡「若き日に薔薇を摘め」 安田浩一が薦める新刊文庫3選

安田浩一が薦める文庫この新刊!

  1. 『若き日に薔薇(ばら)を摘め』 瀬戸内寂聴、藤原新也著 河出文庫 1045円
  2. 『死んでたまるか 団鬼六自伝エッセイ』 団鬼六著 ちくま文庫 880円
  3. 『植物の形には意味がある』 園池公毅著 角川ソフィア文庫 1056円

 (1)老いの諦念(ていねん)には程遠く、言葉はふわりと色香を放つ。恋に生きた小説家はこのとき90の手前。世界を回り、人々の息遣いをカメラに収めてきた写真家も60代の半ばに達していた。枯れることを知らない二人の往復書簡。生を語り、死を想(おも)う。恋愛の中に潜む苦悩や煩悩こそが人の生き方を教えてくれるのだと藤原は説き、寂聴は自身の幸せを意識するたび「その幸福らしいものを破壊したくなる」と返答する。乗り越えてきたであろういくつもの修羅の風景が立ちのぼる。それでも二人は訴える。薔薇の棘(とげ)を恐れるな。傷ついたとしても、若き日に摘み取った蕾(つぼみ)は、老いの中でも花を咲かせるのだと。

 (2)SM官能小説の第一人者として知られた団鬼六も、休筆を宣言したことがあった。スポーツ紙で連載していた小説に「鴇(とき)色の蹴出し」と書いたところ、編集者に「ピンクの腰巻」と書き直された。情緒が通じないと嫌気が差し、書くのをやめた経緯を本書で知った。破天荒で浮き沈みの激しい生き様を自らが綴(つづ)る。酒、将棋、快楽。それらをとことん愛した無頼派の筆致は、驚くほどにしなやかで、まなざしは優しい。

 (3)生物は進化の過程で環境に適した形をつくりあげる。人も動物も植物も同じ。では、なぜ、葉っぱは平たいのか。なぜ、根はもじゃもじゃなのか。そこには、生き抜くための「仕組み」が埋め込まれていた。形の謎を解いていけば、多様性の豊かさが一気に花開く。好奇心だけで読み進めることのできる植物解説書だ。=朝日新聞2023年1月14日掲載