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好奇心の行方 澤田瞳子

 先日、家族ぐるみの付き合いの作家仲間から、「澤田さんは好奇心の塊」と評され、驚きの声が出た。そんなことなかろう。世にはもっと好奇心旺盛な人がいるはず。だが家族や仕事先の方々に聞けば、誰もが「気づいてなかったの!?」と目を丸くする。「知らないことを知りたくて小説を書くってインタビューで答えていたじゃない」とも指摘された。

 確かに、未知のことを知りたい性格は否定しない。豆腐はにがりと大豆から作ったし、パンは最終的には葡萄(ぶどう)から取った自家製酵母のパンまで作った。フラダンスは半年しか続けられなかったが、フラメンコは初心者向け曲のセビジャーナスならまだ踊れるはず。事情が折り合うなら今からでも他業種の勤務経験を積みたいし、ある書店さんとはいずれ短期アルバイトをさせてもらう約束をしている。

 ただ、本当に好奇心旺盛な方々は私の比ではあるまい。私が知らぬ何かに向かって邁進(まいしん)中の方が、きっと大勢いるはず――と考え、あれ?と首をひねった。もしやそう考えること自体、己が好奇心旺盛である事実の表れなのか。私はまだ見ぬ何かをただ追い続け、だからこそ自分の貪欲(どんよく)さに気づいていないのか。

 自分が欲深い自覚はある。先日ひょんな縁から、あるエンターテインメント施設に初めて行った。なるほど、これが!と丸一日感心し続けた帰り道、私は「さて、今後はどうしよう」との戸惑いを覚えたのだ。未知のことを体験し、好奇心が一つ満足してしまった。そこで止まりたくない。もっと何かを知りたいのだがさて、何があるかなと感じた自分自身に、少なからず驚いた。

 結論から言うと、そんなわけで私は今、麻雀(マージャン)の勉強を始めている。多くを虜(とりこ)にするあのゲームは、どんなものなのか。日常用語になっている意外な麻雀用語やその歴史にも触れ、わくわくしている。好奇心は猫をも殺すというが、私の好奇心は今後どうなることか。不安とともに、それすらがやはり楽しみである。=朝日新聞2023年2月22日掲載