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明治維新の先駆者の姿に迫る「天誅組の変」 田中大喜が選ぶ新書2点

『天誅組の変』

 数多くの志士が活躍した幕末は、日本史のなかで最も人気のある時代の一つだろう。舟久保藍『天誅組(てんちゅうぐみ)の変』(中公新書・924円)は、文久3(1863)年の天誅組の変と生野の変という、尊王攘夷(じょうい)派志士による二つの蜂起の実態と意義に迫る。

 どちらも、結果的に短期間で幕府軍に鎮圧されたため注目度は低い。しかし、志士たちは藩や身分を超えた組織を作り、幕府領を制圧して朝廷直轄地にし、王政復古の形を示した「新政府」の樹立を図ったことに驚かされる。4年後の明治新政府の発足は、天誅組が実践した「新政府」構想の大成といえ、維新の先駆者としての姿を示す。
舟久保藍 中公新書・924円

『東北史講義【古代・中世篇】』

 地方史の叙述は、中央の視点から描く歴史像を相対化する重要な取り組みである。東北大学日本史研究室編『東北史講義【古代・中世篇(へん)】』(ちくま新書・968円)は、最新の研究成果を踏まえつつ、古代から中世の東北史を描き出す。

 当該期の東北地方は境界領域として存在したがゆえに、古代以来人々の交流と移住が重ねられたことで、内部に多様な地域が形成された。これらの地域こそが東北史の原動力であり、その叙述を通して地域の主体性や独自性のあり方を通時代的に示す。中央史観の相対化に止(とど)まらない地方史の意義を存分に語る。
東北大学日本史研究室編 ちくま新書・968円=朝日新聞2023年3月25日掲載