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佐藤満春「スターにはなれませんでしたが」 多様化する「芸人」像の先駆け

「スターにはなれませんでしたが」

 お笑いコンビ「どきどきキャンプ」の佐藤満春さん、通称サトミツさん。相方の岸学さんと、米国の連続ドラマ「24」のジャック・バウアーのモノマネやコントで2000年代のお笑い番組を席巻、その後は佐藤さん単体でも「じゃないほう芸人」やトイレを語る芸人として活躍しつつ、ラジオやテレビの人気番組の構成作家をつとめている。

 本人が言うように、超スターというわけではないが、同世代の私のような芸人からするととても輝かしいお仕事の数々に見える。しかしこの、芸人と構成作家の同時並行スタイルは、自分の適性を見極めた、とても現実的な生存戦略であり、現代の多様化する芸人像の先駆けでもある。

 半生記でもある本書では、サトミツさんがどのようにして現在の活動に至ったのか、望んだ形ではなく必死に生きていて現在に落ち着いた過程が綴(つづ)られる。その真面目で誠実な人柄ゆえに、偽りのない心情の吐露が刺激的だ。夢を持てなかった少年時代、辞めるキッカケを失った若手芸人時代、露出以降、スターになれない、否、なりたくなかった気持ちなど。

 若林 サトミツがやっていることはどうしてもやりたいことっていう訳じゃなくても、好きなことではあったっていう。それをやることによって、仕事がついてきた感じだよね。

 佐藤 そうだね。それって向き不向きというか、生まれ持ったものっていうのもあるけど、超スターにならなくとも、割と熱があることで食べていける時代になったなと思ってて。

 若林 演者か作家かどちらか1本にしたほうがいいっていう話もあったもんね。今じゃ両方やる人も結構いるけど。

 佐藤 当時はあったね。でもそれも若林君は初期から「両方やっちゃえば」って言ってくれてたのを覚えてるな。選択する必要もないっていうか(以下略)。

 盟友のオードリーの若林正恭さんとの対談でもわかる通り、サトミツさんは少年期から徹底して周囲から「求められること」に、自分で「できること」でフィットさせていく完全な顧客優先主義だ。しかしなんでもやるわけではない。あくまで「好きではある」ことを軸にしている。

 サトミツさんのように、サンプルケースのない境界線を行き来する「芸人」が、世の「芸人」像を揺さぶり、更新してきた。映画監督や芥川賞作家まで、自分だけの強みや武器があればなににでもなれるのが今の「芸人」だ。オードリーの春日俊彰さん、南海キャンディーズの山里亮太さん、Creepy Nuts(クリーピーナッツ)のDJ松永さん、日向坂46の松田好花さんらとの対談も読みごたえがある。勇気づけられる一冊だ。この人、好き!ってなる。=朝日新聞2023年4月15日掲載

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 KADOKAWA・1760円。著者は1978年生まれ。芸人であるとともに、「ヒルナンデス!」や「オードリーのオールナイトニッポン」などの構成作家としても活動している。