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牧野茂、大城聡、裁判員経験者ネットワーク〈編著〉「裁判員17人の声」 法律の専門家でない人たちの生の声

『裁判員17人の声 ある日突然「人を裁け」と言われたら?』

 2009年からはじまった裁判員制度。本書は裁判員として裁判に参加した17人の市民の生の声をインタビュー形式でまとめたものだ。

 「(裁判員経験者の)交流団体の存在は知らず、経験者の話も聞いたことがありませんでした。もし事前に聞くことができたら、参加の助けになったと思います」(参加当時30歳代だった自営業の男性T・Yさん)

 先入観を持ってはいけないとあえて事前に経験者の話などに触れなかった人もいるが、法律の専門家でもないあなたがもし選任されたらどうするだろうか。

 23年、選定された裁判員候補者の辞退率は66・9%、選任手続き期日に出席を求められた裁判員候補者の出席率は68・6%。開始時に比べ辞退率と欠席率が上昇している。この数値は〈興味深いが、なんだか面倒くさそう〉〈仕事のスケジュール上、無理〉〈責任が重すぎる〉という人の声を反映しているように見える。果たして悪いことばかりなのだろうか。実際どんな感じなのだろうか。そういう人にこそ、当事者として読んでほしい内容だ。

 制度のどこが良くてどこが悪いかを、誘導するのではなく誰に対してもフラットに聞くインタビューだ。

 裁判員制度でたびたび論点になる守秘義務についても全員に聞いている。評議において自分を含め、だれがどんな意見を出したか、多数決の割合はどうだったかということを公開できる範囲の問題だ。多くの人が緩和したほうがいいと口にするが、「緩和が必要かの議論をする場を設けるべきだとは思いますが、私自身は必要ないと思います。ただし、専門家が検証できるしくみは必要だと思います」(当時50歳の派遣社員の女性M・Oさん)の意見にはうなった。

 多くの人が「参加して良かった」、もう一度選任されたら「引き受けます」と答えていたのが印象的だ。それだけでなく参加に消極的だった人でさえ、参加後には社会活動に積極的になるなど、法律への関心が高まっている。=朝日新聞2024年9月7日掲載

    ◇

 旬報社・1980円。牧野茂氏は弁護士。日弁連裁判員本部委員をつとめた。2010年に裁判員経験者ネットワークを立ち上げ、共同代表世話人。大城聡氏は弁護士。同ネットワーク共同代表世話人。