幼い娘に「霊って本当に居るの?」と聞かれ、スポーツ新聞の競馬欄を眺めながら「さぁ? 俺は見たこと無いねぇ」と答える父親。一見ごく普通の会話のようだが、とんでもない。なぜなら、父親の職業は「除霊師」なのだ!
東雲茜(しののめ・あかね)はちょっぴり金に汚いが、童顔で可愛い女子高生。ある日、ギャンブルとキャバクラに明け暮れるインチキ除霊師の父親が、わずか42万7310円だけを置いてキャバ嬢と駆け落ちした。ひとり残された茜は生活のため「東雲除霊事務所」を引き継いで依頼を受けるのだが、当然霊なんて見えない――。昨年から「グランドジャンプ」(集英社)で不定期連載され、4月に待望の第1巻が発売された『女子高生除霊師アカネ!』(大武政夫)は、今までにないタイプのブラック・コメディーと呼べるだろう。
おどろおどろしいはずの除霊師を主人公にしたコメディーといえば、1991年から8年間「週刊少年サンデー」(小学館)に連載された椎名高志の出世作『GS美神 極楽大作戦!!』があった。非日常的で多彩なキャラクターがドタバタを繰り広げる『うる星やつら』(高橋留美子)の伝統を受け継いだ、90年代の「少年サンデー」を代表する作品のひとつだ。主人公の美神令子はバブル期ならではの“ボディコン”美女。超一流の「ゴーストスイーパー(GS)」だが金にはがめつく、億単位の報酬を要求する一方、部下の横島を時給250円という非合法な薄給でこき使っている。茜も美神も「金に汚い女性除霊師」という点が共通しており、茜が除霊するときの巫女スタイルは美少女幽霊おキヌちゃんも彷彿とさせる。
ただし、「GS美神」の舞台は悪霊や妖怪が実在し、タイムスリップも起こる少年マンガらしいファンタジックな世界だった。それに対して、「アカネ」はあくまでリアルだ。とりあえず第1巻の時点では、本物の幽霊など登場しない。霊なんて見えない茜が「人は都合のいい嘘で幸せに生きていける」とうそぶく父親に教えられた演出やハッタリを駆使し、除霊師として奮闘する姿が描かれていく。
絵柄はあまり似ていないが、作者の大武政夫は猿渡哲也のアシスタントだったという。サイテーのクズのくせに威圧感たっぷりの父親は、明らかに『高校鉄拳伝タフ』の宮沢鬼龍がモデルだろう。そのため茜は一部の読者から「鬼龍の娘」とも呼ばれているらしい。
霊能力もないのに除霊をしている茜の行為はほとんど、というか完全に詐欺なのだが、その童顔や内心の葛藤がキャラの黒さを中和し、素直に笑いを誘う。一方で「毛戸貢(もうとみつぐ)や「宇和木須瑠世(うわきするよ)」といったわかりやすい名前を持った依頼人たちもクズばかり。善良なカモとはほど遠く、茜にだまされつつも結果に満足していることもあって読後感はいい。
肩の力を抜いて楽しめる斬新なギャグマンガだが、もしかすると作者の中には現実世界で暗躍する「自称・霊能者」に対する怒りもあったりするのかもしれない。