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「あさいますお著作集 ゲゲの謎」書評 夭逝の画家の中心にあった底辺への眼差し

評者: 椹木野衣 / 朝⽇新聞掲載:2023年04月29日
ゲゲの謎 あさいますお著作集 著者:あさい ますお 出版社:風媒社 ジャンル:芸術・アート

ISBN: 9784833149570
発売⽇: 2023/02/17
サイズ: 21cm/519p 図版14p

「あさいますお著作集 ゲゲの謎」 [編]浅井玉雄

 昨年、愛知県美術館で開かれた「生誕80年 あさいますお――不可視の後衛」展は画期的だった。1960年代初頭を疾風のように駆け抜け、わずか24歳で事故死したあさいの画業を初めてまとめて振り返る機会であった。だが絵だけではない。あさいは並行して多くの詩や文を書き、ガリ版で発行し、自身と時代を鼓舞した。それらを一冊にまとめたのが本書だ。
 あさいの眼差(まなざ)しはつねに底辺の弱きものへと向けられた。その姿勢は独自の語法を生む。「底点」「尖底点」といった言葉はやがて「ゲゲ」や「ゲゲゲ」(下の下の下)へと結実する。
 ある日、あさいはこの「ゲゲ」のことでマンガ家の水木しげるを突然訪ねる。この出会いから水木が受けた触発(水木の「墓場」からあさいの「ゲゲ」へ?)については水木自身回顧している。その水木のマンガに「国家の死滅した自由の楽園」への「慢性的飢餓」を読むあさいの筆致は鋭い。