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「就活メディアは何を伝えてきたのか」書評 戦前戦後の出版物でたどる歴史

評者: 神林龍 / 朝⽇新聞掲載:2023年04月29日
就活メディアは何を伝えてきたのか 著者:山口 浩 出版社:青弓社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784787235169
発売⽇: 2023/02/28
サイズ: 19cm/324p

「就活メディアは何を伝えてきたのか」 [著]山口浩

 4年ぶりの新入生歓迎行事に沸いた4月は、「就活」つまり学生の就職活動の季節でもある。新入生や2~3年生は、内定獲得を目指して日々就活に勤(いそ)しむ4年生がちらりと目に入り、大学生活のゴールとしての就職という現実をも感じたかもしれない。
 就職活動自体を分析対象とした類書は、とくに社会学の分野で最近少なからず出版されている。対して、本書は「メディア」に注目し、題名の通り、就活メディアが何を伝えてきたのかをまとめることを通じて、就職活動の機能や課題を浮き彫りにしたところに特徴がある。1896年の大橋又四郎編『就職受験案内』(少年園)に始まり、昨年のユースフル著『トップ就活 最強の教科書』(小学館)まで、戦前戦後を通じて実に48もの出版物を取り上げているのが興味深い。
 著者が最終的に辿(たど)り着くのは、学校のキャリア教育を通じた主体的な就職活動の実現という、ありがちな結論ではある。しかし、戦前のコネ就職から戦後の自由募集に就職経路が移ったこと、にもかかわらず学校での学びが役に立っていると思われていないこと、その結果か、就活指南出版物の多くが、履歴書の書き方や面接での態度など、いわば手練手管の紹介に偏っていることが次々に指摘され、著者の主張には熱量が感じられる。他方、学校での学びの失敗の歴史はキャリア教育の困難さもまた示唆しているかもしれない。
 また、経営学を専門とする著者のコメントには、アルゴリズムの評価など、労働経済学など既存分野の専門家とは異なる新鮮な解釈が見られるのも面白い。しかも、就活の歴史や最近のウェブメディア、エージェントの登場にも目を配るなど、本書の守備範囲は広い。就活に携わる人々だけではなく、いまどきの就活を実はあまりよく知らない人々にも役立つだろう。就活メディアのもつべき本質を議論するにはよい材料を提供してくれる書籍だ。
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やまぐち・ひろし 1963年生まれ。駒沢大学教授。専攻は経営学。著書に『リスクの正体!』など。