図鑑には、対象の名前を調べる図鑑と、名前がわかっているものについて、その性質を知るための図鑑がある。植物の検索図鑑は前者、多様な恐竜が特徴とともに載っている図鑑は後者にあたると言えよう。本書は、子ども向けのゲーム本のように見えるが、実は後者にあたり、ドラゴンについての図鑑として読むことができる。
掲載されているドラゴンは、みな実在する書物や民話に登場するもので、著者が勝手に空想したものではない。種類ごとに記されている「伝承地域」と「出典」をもとに調べれば、詳しい解説本や原典にたどり着くこともできる。
たとえば「蜃(しん)」という中国のドラゴンについての解説では、出典として「本草綱目」と「三才図会」が紹介されている。いずれも実在する中国の古い博物書である。これをヒントにネットや書物で調べた結果、蜃気楼(しんきろう)とはこの「蜃」が吐き出した幻の楼閣である、という話にたどり着いた。思わぬところで蜃気楼の語源を知ることになり驚いた。次にメスター・ストゥアワームというスコットランド民話が出典のドラゴンについても調べてみた。「農家の末っ子がこのドラゴンを倒して王女と結ばれる」というオークニー諸島の民話にちゃんとたどり着くことができた。英語で記された情報であったが、こういう時には翻訳サイトが威力を発揮する。
巻末に「参考文献」が掲載されているのも大人向け図鑑っぽいところで嬉(うれ)しい限りだ。参考にした文献の主要なものしか掲載されていないようだが、ほとんどが真面目な解説書で神話を学ぶための入門書案内のように見える。
本書で取り上げられているドラゴンの「伝承地域」はヨーロッパや中国はもちろん、インドから中央アメリカまで、世界各地に渡っている。この図鑑をヒントに調べていけば、ふだんの生活ではたどり着けない、世界各地のディープな伝説に触れることができそうだ。=朝日新聞2023年5月6日掲載
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学研プラス・1320円=8刷25万部。22年3月刊。本書を含む「最強王図鑑シリーズ」は、既刊13冊とフィギュア3種で累計350万部を突破。最新刊『最強王あいうえお図鑑』も。