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綾辻行人さん×FF14・FF16吉田直樹プロデューサー対談 ミステリもゲームも「驚き」が命

綾辻行人さん(左)と吉田直樹さん=吉村智樹撮影

ミステリ小説で知った「驚き」

――吉田さんは綾辻さんが書く小説の影響を強く受けていると聞きました。

吉田直樹(以下、吉田): そうなんです。中学時代に図書館で綾辻さんの『十角館の殺人』を借りて読ませていただいたのが始まりです。とにかく、「こんなに緻密なミステリが書けるものなのか……」と驚きました。常識をひっくり返されるというか、展開は予想するものの、結末に近づくにつれことごとくその予想が「気持ちよく」外れていく。あのときに受けた衝撃とカタルシスはいまだに忘れられないです。僕もゲームの脚本を書いたり校正を行ったりしますが、プレイヤーに与えたいのは「驚き」です。そこは綾辻さんから受けた影響がめちゃくちゃ大きいのです。

綾辻行人(以下、綾辻):思わぬところで、自分が書いてきた作品がいろんなクリエイターさんたちに影響を与えている、と知る機会が増えました。これってやっぱり、作家としては嬉しいことです。吉田さんからもそのように言っていただけて、とても嬉しいし、とても光栄です。

吉田:綾辻さんが「ミステリ」という言葉を大切にしておられているのを知ってから、自分も取材を受けた原稿の校正の際、「ミステリー小説じゃないんだ。ミステリなんだ。伸ばさないんだ」と必ずチェックを入れますもん(笑)。完全に綾辻さんからの刷り込みですね。

綾辻:いや、それは自分がかつて、早川書房の「ミステリ・マガジン」や「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」、創元推理文庫を読んで育ったものですから。創元のほうでも、「ミステリー」じゃなくて「ミステリ」表記なんですよね。大切にしているというよりもその刷り込みで(笑)、「ミステリー」じゃなくて「ミステリ」を使いたがる、という話なんですよ。

マリオ・ドラクエから「ゲームの人生」へ

――吉田さんがゲームに関心をいだいたきっかけはなんですか。

吉田:世代的にもやはりファミコンです。向かいの家に住む幼なじみが、「俺は新しい遊びを見つけた!」と興奮しながら言うものですから、いったい何だろうと思って彼の家へ見に行ったんです。するとそこにファミコンがあって、画面にいわゆる“最初のマリオブラザーズ”が映し出されていた。自分の操作でテレビの中の絵が動くことにめちゃめちゃショックを受けて……。特に「ルールを作る、そのルールの中でプレイヤーは自由に遊べる」ということが衝撃でした。アクションゲームにハマった後は、ドラゴンクエストとファイナルファンタジーでRPGの面白さと、ゲームという媒体では物語も表現できることを知り、ドラクエⅢ(「ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…」)で決定的なものになって、もう「ゲームは自分の人生」というふうになっていきました。

綾辻:何日か前に吉田さん、「ファイナルファンタジーXIV」(FF14)の新情報を発表する生放送(5月12日配信)で、発売されたばかりの任天堂の「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」を持ち込んでプレイしておられましたよね。「こんなに嬉々として他社の新作ゲームを遊んで語るって、この人は本当に“ゲーム”が好きなのだなあ」と、大いに感じ入りました。

吉田:お恥ずかしい……僕はスクウェア・エニックスの取締役ではあるんですが、肩書をはずせば、ただのゲーム好きのおっさんです。ゲームに育てられてきた僕にとって、「これはライバル会社のゲームだ」とか、そんなのどうでもいい派なんです。他社さんのゲームだって、おもしろいものはリスペクトしていますし、楽しみたいですから。

綾辻:本当にそこのところ、スタンスがくっきりしていますね。でも、そういう無邪気なスタンスって、場合によっては面白く思わない大人たちもいるものなんじゃないですか? 吉田さんが社内や業界内で愛されているからこそ、できることなのでは。

吉田:どうなんでしょう(苦笑)。

ドラクエの世界観が小説にも反映

――綾辻さんはこれまで熱中したゲームはありましたか。

綾辻:最初は「スペースインベーダー」でしたね。そういう世代です。1979年に僕が大学に入った頃、ちょうどブームの最中だったんですよ。通っていた大学がある京都の百万遍界隈にも、いわゆる「インベーダー喫茶」がたくさんありました。「インベーダーハウス」というものも街のあちこちにあったなあ。住んでいた下宿の近くにも24時間営業のインベーダーハウスがあって、毎晩のように通ってしまってね。何ヵ月かの間にたいへんな散財をしましたよ。思い返すと恐ろしいというか、何というか。

吉田:ゲームセンターではなく、インベーダーハウスなんですね。

綾辻:そうです、インベーダーハウス。「スペースインベーダー」とその亜流のゲームしか置いていなかったから。それほどの大ブームだったんです。ところが、僕自身の肌感覚でもそう感じるんですが、このブームはある時期突然、ぱったりと終わってしまった。

吉田:突然ですか?

綾辻:そう、突然。あっというまに客が来なくなって、バタバタと店がつぶれて……という。これは先輩のミステリ作家・竹本健治さんから聞いた実話なんですが、その時期ちょうど竹本さんはインベーダーハウスでバイトをしておられたそうなんですね。その店で、「昨日までは最高収益だったのが、今日は誰もこなくなって最低収益」という“破局”があったと。ブームが一夜にして終わる、という現象を目の当たりにして、「あれはなかなか強烈な体験だった」と語っておられました。

吉田:そんなことがあったんですか。

綾辻:「インベーダー後」もゲームセンターにはちょくちょく行って、あれこれ遊んでましたね。「パックマン」はもちろん、「平安京エイリアン」とか「クレイジー・クライマー」とか……懐かしい。その後、作家デビューする少し前くらいにファミコンを買ったんだったかな。で、やっぱりまず「スーパーマリオブラザーズ」に夢中になって。1986年に出たディスクシステムの「スーパーマリオブラザーズ2」も、当時としてはかなり難度が高かったと思うんですけど、クリアするためにすごく頑張ったなあ。

吉田:僕が中学校に入ったくらいの頃ですね。当時は街にまだたくさんのゲームショップがあって、ディスクの書き換えをしてくれました。みんなそこへ持っていって遊んでいましたよ。おかげでさまざまなゲームを体験できました。

綾辻:ディスクシステムは当時、重宝しましたよねえ。「ゼルダの伝説」の1作目もディスクシステムでしたよね。「ザナック」とか、最初の「メトロイド」や「悪魔城ドラキュラ」なんかも……いやあ、懐かしいです。

――ファイナルファンタジーといえばロールプレイングゲーム(RPG)のイメージが強いですが、綾辻さんはRPGの原体験はありますか。

綾辻:当然のように「ドラゴンクエスト」でしたよ。1作目も2作目もハマりましたけれど、何といっても衝撃的だったのは「ドラゴンクエストⅢ」。ストーリー上のあの仕掛けですっかり驚かされて、猛烈に感動してしまいました。

吉田:僕も同じです。

綾辻:そのドラクエ3、発売されたのが1988年2月だったんですね。すぐに買ってプレイして感動して……で、ちょうどその前後に僕、『迷路館の殺人』を書き始めているんです。完成したのが同年の5月か6月だったかな。書いている間はなぜか意識していなかったんですけれど、できあがってしまってから、「あ、これはドラクエの影響でこうなったのか」と自覚しました。「中央に広大な迷路がある地下の館」って、まんまドラクエのダンジョン(RPGでは迷宮を意味する)ですものね(笑)。つまりはあの時期、ドラクエに熱中していなかったら、「館」シリーズの3作目は『迷路館』にはならなかったかもしれない、というわけです。

吉田:僕は綾辻さんの『迷路館の殺人』が大好きで、実は今日、当時購入した初版を持ってきたんです。小説の中に別の本が登場し、作中作があって、作中作のカバーデザインまで存在するという凝った構成にめちゃくちゃ痺れました。買ってすぐに5回以上読み直させていただいています。読むというより「体験する」という感覚でしたね。

綾辻:27歳のときの作品で、好き放題に楽しく書いたなあという記憶があります。いま読み返すと、若気の至り的な恥ずかしさを感じてしまいますけれど、そのへんも含めての勢いというか、面白さがあるんでしょうね。これだけ時間が経っても、いまそのように言っていただけるとやっぱり嬉しいし、書いて良かったなという気持ちにもなります。ありがとうございます。

吉田:『迷路館の殺人』を読んで30年以上を経ても、あの日の驚きは昨日の出来事のように思いだせます。僕は読書体験でも映像体験でも「驚かされる」のが好きなんです。これまで見ていた世界の風景がガラッと変わるって強烈じゃないですか。そんな既成概念が崩れる体験をしたくて、また綾辻さんの本を読む。だからこそ、自分がゲームを作るのならば、綾辻さんのようにプレイヤーを驚かせるものを作りたいなと思ってやってきました。

綾辻:「見ていた世界の風景がガラッと変わる」ようなものを、というのはデビュー以来、ずっと求めつづけていることです。僕自身、昔から小説や映画でそのような体験をさせられるのが大好きだったから、ですね。

 ゲームをプレイしていても、同じような「驚き」を得られることがあります。さっきお話ししたドラクエⅢはもちろんそうだったし、いまとっさに思い出せるタイトルだと、スーパーファミコンの「ヘラクレスの栄光Ⅲ」とか。もっとも、これは結局、シナリオやストーリーがもたらす驚きですね。ゲームはそれだけじゃない多様な要素で成り立っているから、その多様な要素がそれぞれに、あるいは複合的に機能して、小説では太刀打ちできない「驚き」を創造する可能性に満ちていると思います。

吉田:綾辻さんの作品はどれも、世界の景色が一変するような瞬間が、たった1行、いや1ワードでドーンとやってくる。「いったい構成をどう作っているんだろう」って、がぜん興味があります。小説を書く前にすべて設計するんですか?

綾辻:プロット段階で細部まで決め込んでから取りかかるのが、個人的には理想なんですけれども。なかなかそうはいかない場合もあります。初期の何作かは事前にかなり詳細な設計図を作っていました。章立てから、章の下の「節」に至るまで、「ここでこれを書く」「次にこれを書いて伏線を張る」というふうなノートをきっちりと用意して。そこまでやらないと書けない、という作品もあったんですよ。たとえば『時計館の殺人』。あれは先に全体のタイムテーブルを作成して、それを微修正したりもしながら書き進めた覚えがあります。

 ただ、これはあくまでも「作品による」んですね。ハードな本格ミステリだと必要度が上がりますが、「囁き」シリーズとか「Another」シリーズとかになると、そこまで厳密には決めないことも多い。中にはシチュエーションだけを決めて、あとは書きながら考えたという作品もありましたね。

吉田:作品によって考え方や書き方を変えるんですね。だから読者はさまざまなパターンで驚かされるんでしょうね。

作品づくりでもっとも大切なのは「仕掛け」

――ミステリを書く上で、もっとも大事にしている点はなんですか。

綾辻:おおざっぱに言ってしまうと、“仕掛け”ですね。密室トリックとかアリバイトリックとか、そういった作中のトリックじゃなくて、作品全体に仕掛ける大きな“何か”。それがまずあって、「これはいけそう」という手応えをつかめたら、「その仕掛けを成立させるためにはどうすればいいのか」を仔細に考えていきます。ストーリーやキャラクターなどは、作品にもよるんですが、おおむねあとからついてくる感じですね。

吉田:仕掛けですか。なるほど。綾辻さんの『殺人鬼』を読むと、おっしゃっている意味がよくわかります。僕が綾辻さんの仕掛けでもっともショックを受けたのは『殺人鬼』でした。殺人鬼は描写がけっこうキツい。ホラー、サスペンス、スプラッターの要素がふんだんに盛り込まれていて、頭の中に絵が浮かんでしまう。目を背けてしまいたくなる残酷な描写もあるのですが、実はそこに伏線が張られているという。そうして「やられた!」「あそこに謎を解く鍵を隠していたのか!」と我々愛読者は悔しい思いをするわけです。そしてまたやられたくて、一気に何度も通読する。何度読んでも新しい発見がありました。

綾辻:『殺人鬼』まで、そのように読み込んでくださったとは……嬉しいやら申し訳ないやら(笑)。おっしゃるとおりあの作品には、過激なスプラッターシーンを連発することで読者の目をくらませて、あからさまな伏線を見えなくさせてしまおう、という狙いがありました。単行本化は1990年でしたが、87年のデビューから90年代前半にかけては僕も新作発表のペースが速くて、作品ごとにいろんなパターンを試してみていた時期でした。若くて怖いもの知らず、みたいなところもありましたね。

吉田:そういった綾辻さんの姿勢に、僕は触発されていたんだと思います。驚かせるためにどう表現したらいいのか、それをどう隠して楽しんでもらうか、そういった工夫の原点が、僕にとって綾辻さんの小説なんです。もちろん、小野先生の御本も、開発に関わる人はみんな持っていますし……。

綾辻:小野さんの名前が出たので、(読者の方に向けて)ちょっと解説しておきましょう。綾辻の長年のパートナーで小野不由美という女性がいて、彼女は「十二国記」というシリーズを中心に人気を博している同業者なんですが、昔から人見知りで、ちょっと厄介な持病があることもあって、あまり外に出られない、家に引きこもりがちな人なんですね。その小野さんが、実は「ファイナルファンタジー XIV」(FF14)の熱心なプレイヤーで、吉P(吉田さんのニックネーム)の大ファンでもあるんです。だからきっと、いまの話を聞いたら感激しますよ。あまり外に出られないぶん、FF14の世界での冒険や仲間とのつながりによって、楽しいだけじゃなくて、精神的にものすごく助けられているところがあるみたいなので。

吉田:本当ですか。びっくりしました。ありがとうございます。

綾辻:FF14は決まったメンバーでパーティを組んでプレイしているようですが、新しいパッチが公開されたり、ましてや大型のアップデートがあったりすると、もう大変な騒ぎです。「プロデューサーレターLIVE」も毎回、見てるようですし。

 今回、僕が吉田さんと対談をするというので、事前に小野さんから「吉Pがいかに尊い存在であるか」についてのレクチャーをしっかり受けてきました。FF14の歴史、「新生」にあたって吉田さんがどのような仕事をされたか、ということなんかも小野さんからレクチャーを受けて、映画版の『光のお父さん』も観て……そうこうするうちに対談が近づいてきたら、なんだか僕もどんどん緊張してきてしまって(笑)。そのせいなのかどうか、昨日はちょっと熱を出してしまいました。

吉田:発熱したと知って心配していたんです。いやあ、なんだか申し訳ないです。

ゲームに感情移入し号泣

――綾辻さんは「ファイナルファンタジーシリーズ」を、いつからプレイしていますか。

綾辻: ファミコンで1作目が出たときから、です。ドラクエ的なRPGだというので、すぐに買ってきて遊んで、その後も新作が出るたびにプレイしていました。毎作、次々に新たな趣向を盛り込んでくるのが楽しみでしたね。FF2(「ファイナルファンタジーⅡ」)については、2作目にしてずいぶんシステムが違うので戸惑った記憶がありますけれども、慣れるとあれもめっちゃ面白かったです。

吉田:FF2は味方どうしで殴りあって鍛えるという超尖ったシステムですからね(笑)。

綾辻:これだけ時間が経ってもよく憶えているのが、FF3のラストダンジョンかな。あれはつらかったです。

吉田:よくわかります。みんなラスダン(ラストダンジョン)前で心が折れる(苦笑)。

綾辻:つらいぶん、クリアしたときの達成感は格別だったわけですが。――と、そんなふうにFF4も5も6も遊び倒したくちなんですけれど、FF7は途中でやめちゃったんですよね。フィールドに出たあたりで、ちょうど仕事が大変に忙しくなってしまって……もったいないことをしました。その流れでFF8もお休みしたあと、次のFF9(「ファイナルファンタジーⅨ」)で復帰したんです。FF9は良かったなあ。僕がプレイした中ではいちばん好きかもしれない。なんというか、良質な児童文学みたいな香りもあったりして。

吉田:それは生みの親の坂口さん(ファイナルファンタジーシリーズのゲーム開発者 坂口博信氏)もきっと喜んでくださると思います。内部の話をすると、FFは次第にサイファイ(サイエンスフィクション)寄りの傾向が強くなっていたんです。そこで当時、坂口さんが改めて「ファンタジーを作るぞ」と考えられたのだと思います。だからFF9は、FF7と8の流れからすれば、チャレンジした作品だったのです。

綾辻:PS版が出たのが2000年でしたっけ。そのときにほんと、ずいぶんやり込みました。ビビ(ゲーム内に登場するキャラクター「ビビ・オルニティエ」)に当時飼っていた猫の名前をつけてしまったせいもあって、ラストはボロボロに泣きましたよ。いま思い出しても泣きそうになってしまう。白鳥英美子さんの「Melodies of Life」を聴いただけで、もうダメです。

吉田:ゲームを作る側にしてみれば、こんなに嬉しいエピソードはないと思います。

綾辻:ただ僕、それを最後にずっとRPGをやっていないんですよね。「風来のシレン」にハマって、えんえんとシレンばかりプレイしていた時期が長くあって、そうこうするうちに何かと忙しくなって、ゲームをする時間自体がすっかり減ってしまって。なので、吉田さんには申し訳ないのですが、FFも9までで止まっちゃってるんです。今回の対談に向けて、いろいろと予習はしてきたんですけれども。

吉田:いえいえ、お気になさらないでください。

形骸化を打ち破る挑戦

綾辻:RPGの醍醐味のひとつはやはり、作中のキャラクター=プレイヤーがだんだんレベルアップして強くなっていく過程にありますよね。結果として超強力な魔法が使えるようになったり、すごい武器や防具が手に入ったり……というところで得られる達成感や爽快感。FFは作を追うにしたがって、そういった演出の派手さがどんどんエスカレートしていった。その、良い意味での節操のなさが気持ちよくて、楽しみでしたね。そして、FFといえばやっぱり召喚獣。今度はどんなすごいのが来るんだろう、という気分の盛り上がりが毎回、半端じゃなかったです。

 そうそう、FF16の予告ムービーも見てきましたよ。今度はアクションRPGなんですね。意外です。

吉田:そうなんです。ナンバリング作品としては、初の完全リアルタイムアクションです。まさにいま召喚獣のお話をされていましたが、僕の中で「召喚獣というものがパターン化してきたかな」と感じていたのです。魔法を唱えると召喚獣がすごいムービーでやってきて、たくさんのダメージを与える攻撃をして帰っていく、というパターン。もちろんそれが悪い、ということではなく、お約束としては成立し、コストもかけてしっかりしたものになる。でも、もっと進化させられるし、もっと物語に組み込めるのではないか、と考えました。今回は人そのものに召喚獣が宿っていて、召喚獣にトランスフォームして戦う。「獣としての力を手にして生まれてきてしまったゆえの葛藤とか苦悩とか、キャラクター性をしっかり持たせるっていうことをやったら、群像劇としてもおもしろくなるんじゃないか」、そう考えたんです。

――FF16のアクションは難しいんですか。

吉田:いいえ、初めてプレイする人でも必ずエンディングまでたどり着けるシステムを作ってあるので、絶対にラストまで到達できるように、様々なプレイスタイルに寄り添えるようにしたつもりです。

綾辻:僕もいい歳なので、アクションRPGはもう無理かなって思っていたんだけど、それはヤバいですね。久しぶりに遊んでみたくなるなあ。

吉田:完全なリアルタイムアクションに初挑戦するからこそ、「誰でも楽しめる」っていう制約条件を立てたかったんです。ファンの中には、「なぜアクション? アクションが苦手だからこそFFをやっていたのに」と不満に思う方も当然いらっしゃる。でもそういう人たちがストーリーを楽しめなくなったら絶対にダメだと思ったので、ストーリーでもバトルでも充分に楽しんでいただけることを目標にしました。そしてストーリーをクリアした先に、さらに難易度が高くなるアクションゲームとしての本番が待っているという作りです。

綾辻:ヤバい、すごく楽しそう。どうしよう……。

吉田:ありがとうございます。僕も綾辻さんの新刊を楽しみにしています。

綾辻:それなんですよ、問題は。今度、講談社の「メフィスト」という小説誌で『双子館の殺人』という新長編の連載を始めるのですが、その締切が迫ってきて青ざめているところなんです。『十角館の殺人』から始まる「館」シリーズの10作目。かねがね全10作を公言してきたシリーズなので、いちおうこれが最終作になります。全体を通して大きなオチがあるようなシリーズではないんですけれども、久々の「館」だし、やはりそれなりのものを書かねばというプレッシャーが大きくて、なかなか書き始められないでいたんですね。それをやっと、踏ん切りをつけて始めることにしたわけです。

 連載はだいぶ長丁場になりそうなので、ちゃんと完成させられるかどうか心もとないんですが……でも今日、吉田さんとこうしてお話しして、かなり気が引き締まりました。自分もまだまだ頑張らなきゃな、頑張りたいな、と。大きな励みにも刺激にもなりました。早く新作の執筆が軌道に乗って、FF16をプレイする余裕ができればいいなと思います。