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「わたしは、不法移民」書評 制度が弱者に及ぼす影響を知る 

評者: 藤田結子 / 朝⽇新聞掲載:2023年07月29日
わたしは、不法移民 ヒスパニックのアメリカ 著者: 出版社:慶應義塾大学出版会 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784766428964
発売⽇: 2023/06/20
サイズ: 19cm/229,7p

「わたしは、不法移民」 [編]カーラ・コルネホ・ヴィラヴィセンシオ

 本書は2020年全米図書賞候補に入った話題書だ。著者はエクアドル生まれ。借金のかたに1歳で親戚に預けられた。米国で非正規滞在をする両親に4歳で引き取られ、億万長者の援助を受けて名門ハーバード大学に入学した。
 著者が本書を執筆したきっかけは、中南米からの移民に対し厳しい姿勢を示すトランプ氏の大統領選勝利。働きながら米国社会を陰で支える非正規移民の実情を伝えようと、各地で取材を行う。同時多発テロ事件のグラウンド・ゼロで危険な瓦礫(がれき)撤去に従事した者の大半は非正規移民の男たちで、その多くが健康被害に悩まされている。マイアミでは、女たちが家事労働者として雇われているが、虐待を受けることも多い。
 著者の父親は、NYでタクシー運転手として長年働いたが、突然免許が取り消されてからは飲食店に勤務した。男たちは、無登録であるゆえに好条件の仕事を得にくく、ただ働き続け、孤独やうつ病に苦しむ。酒や薬に溺れる者もいるが、適切な医療は受けられず長生きもしにくい。
 著者は、取材協力した人びとを守るため、人名や特徴を変え、「クリエイティブ・ノンフィクション」として出版した。ルポ、回顧録、創作をミックスすることで、魅力的な作品に仕上げている。当事者ならではの痛みと怒りが、読む者の魂を揺さぶる。
 訳者によると、原題の訳を考えるにあたり、「不法移民」という語の拒絶的な語感を当然考慮したが、日本で一般的なこの訳語を採用したという。が、今の日本の状況だからこそ、国際的に推奨される「無登録」「非正規」移民を用いる方がよかったのではないか。
 日本の場合、合法であっても、技能実習制度のもとで人権侵害や搾取が露呈してきた。入管収容も問題となっている。本書は、脆弱(ぜいじゃく)な立場に追いやられている移民・移住者の人生に制度がもたらす影響を知るうえで、大変参考になるだろう。
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Karla Cornejo Villavicencio 1989年生まれ。現在は米国市民権を取得している。