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金原ひとみさん「腹を空かせた勇者ども」 コロナ禍でも全身で青春する10代女子「愛しい陽キャ」

金原ひとみさん

 主人公の玲奈こと「レナレナ」の中学2年生から高校1年生までの3年間を4編の物語で描き出す。家出騒動を軸にした表題作、男友達とのすれ違いを書いた「狩りをやめない賢者ども」など、笑って、泣いて、けんかして、食べて、寝て。当たり前だが、コロナ禍でも青春は続く。

 コロナで休校になった時の自分の娘の様子を観察しながら、大人よりずっとしなやかに現実と向き合う姿を書こうと思ったという。「友達をどんどんつくって部活をやって、といい意味で深刻に物事を考えていないのが頼もしくて。人ともまっすぐにぶつかり、ポジティブさが半端ない。キャラ作りでやっているのかなと思ったけれど、本当に裏表がないとわかった時は、衝撃でした」

 同じくコロナ禍の物語でも「自分自身の気持ちに寄り添った形で書いた」という2021年の「アンソーシャル ディスタンス」が、ずしりと来るA面だとしたら、今作は、爽快さとスピード感が鮮やかなB面の趣だ。

 「成長期の子ってちょっと獣じみていますよね。きゃしゃで折れそうな体がずんずん大きくなって。大人は誰かと話したりするだけで疲れてあとで反省したりするのに、彼女たちはどれだけ人と一緒にいても、『なんか楽しかった!』で終わる。ちょっとすごい力だな、と圧倒されます」

 なるほど、そうなると語感は勇者「たち」ではなく勇者「ども」がぴったりくる。

 金原さんは今年3月まで本紙書評委員。今作の雑誌連載と書評の仕事が重なった。「いろんな本と触れ合う機会があり、自分の殻を破るみたいなところもありました。今回の小説で、私自身に属していないものを持つ完全な他者を描くのに繋(つな)がったかもしれない」

 本書はレナレナの成長譚(たん)であるのだが、もう一人、彼女とともに変わっていくのが、何かにつけてぶつかりあう母である。映画配給会社に勤める彼女は、世間の理を娘に諭す一方で、自分を保つのに精いっぱいで普通に生きるのはつらそうだ。

 その母が連作の最後、学園祭ライブでの娘の真剣なベース演奏に盛り上がる。拳をあげてグルーブする。「人生はハードモード」。だけど、救われる瞬間はたしかにある。(木村尚貴)=朝日新聞2023年8月2日掲載