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「ガストロノミーツーリズム」書評 地域社会の活性と幸福の原動力

評者: 藤田結子 / 朝⽇新聞掲載:2023年08月19日
ガストロノミーツーリズム 食文化と観光地域づくり 著者:尾家 建生 出版社:学芸出版社 ジャンル:産業

ISBN: 9784761528553
発売⽇: 2023/06/29
サイズ: 21cm/187p

「ガストロノミーツーリズム」 [著]尾家建生、高田剛司、杉山尚美

 スマホを開けば、美味(おい)しそうな食べ物の写真が流れてくる。デジタル技術が進む今日、私たちの日常は食べることと痩せることに関わるイメージと商品に溢(あふ)れ、葛藤を余儀なくされる。日常を離れても、旅先にはさまざまな食の光景が展開している。
 産業革命後の欧州で始まった近代ツーリズムにおいて、食事じたいが観光の主目的になることはなかった。が、1980年代の成熟したヨーロッパ観光のなかで、レストランの食事の質が問われるようになり、飲食サービスを特徴とする観光開発が進められたという。
 本書は、ガストロノミーツーリズムがどのように台頭してきたのかを歴史的な視点から解説する。著者によれば、「ガストロノミー」という語は、贅沢(ぜいたく)なうまいものばかりを食べること以外にも、豊かな意味をもつ。食を通じて、地域において人間社会を活性化させ、人びとを健康にし、幸福にする原動力となるものがガストロノミーなのだ。
 外国からの旅行者が日本を訪れる目的の1位は「食」であるという。地域の食文化をどのように発信し、価値を提供していくべきなのか、本書は提案する。食品製造、レストラン、販売、業界団体に関わる読者にとっては、ビジネス書としても役立つだろう。フードフェスティバルやワインツーリズム、ご当地グルメなど、欧米と日本に関する豊富な事例が紹介されている。
 地域の食文化体験として、地元食品スーパーを推す案には膝(ひざ)を打った。大手資本のスーパーと比べて、地元資本のスーパーは地域食材の品ぞろえがよい。評者も旅先ではみやげもの屋よりも、地域住民が利用するスーパーを探す。安価で新鮮な地産の野菜や魚は最高のおみやげだ。「ガストロノミー体験のこれからのアトラクションになりうる存在」という指摘は、少子高齢化の中、地方の食品関連産業が生き残るうえでのヒントにもなりそうだ。
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おいえ・たてお 平安女学院大特任教授▽たかだ・たけし 立命館大教授▽すぎやま・なおみ ガストロノミーツーリズムアドバイザー。