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「何かが道をやってくる」など人間とは何かを探る3冊 藤井光が薦める新刊文庫

藤井光が薦める文庫この新刊!

  1. 『何かが道をやってくる』 レイ・ブラッドベリ著、中村融(とおる)訳 創元SF文庫 1210円
  2. 『クララとお日さま』 カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳 ハヤカワepi文庫 1650円
  3. 『こびとが打ち上げた小さなボール』 チョ・セヒ著、斎藤真理子訳 河出文庫 1430円

 「非人間的」な仕掛けを通じて、人間とは何かを探る3冊が揃(そろ)った。(1)では、アメリカの田舎町に季節外れのカーニバルが到来することで、無二の親友同士である13歳の少年ふたりが異界を覗(のぞ)き見る。ジムとウィルのふたりは、そのカーニバルが抱えた歪(ゆが)みを知り、その魔の手から逃れようと苦闘する。物語の世界観は古めかしいものの、時間の流れを超越するという誘惑を前にした人間の葛藤が鮮やかに描き出されている。

 近未来を舞台とする(2)では、人間の友達として開発されたAIロボットであるクララが、ジョジーという女の子と暮らした記憶を語っていく。クララが観察と学習に優れ、周囲の人間とうまくやり取りをする一方で、人間の側は「向上処置」によってみずからに手を加えている。人間と機械の境界線はどこか。人間らしさとはどこに存在するのか。機械であるクララに共感させる語りの巧みな手腕が、そうした問いをさらに重層的にしている。

 1970年代の韓国社会を背景とする(3)は、拡大する経済格差と急速に進む再開発が人間にもたらす歪みをえぐり出す。裕福な家庭の若者たちが抱える虚無感と、「こびと」の家族たちが代表する低所得の人々の厳しい生活を行き来する語りには、重苦しさがつきまとう。どの人間も社会の歯車でしかないが、そこからの出口は存在しないのだ。具体と抽象、肉体と機械がメビウスの帯のように絡み合う鈍色(にびいろ)の世界で、みずからの尊厳を守ろうとする人々の姿が胸を打つ。=朝日新聞2023年8月19日掲載