『発酵食品と戦争』
科学と政治の関係について考えさせてくれる2冊を紹介する。小泉武夫『発酵食品と戦争』(文春新書・1155円)は、発酵と戦争の不可分な関係を興味深い数々のエピソードを交えて明かす。戦時、日本では古くから味噌(みそ)などの発酵食品が、欧米ではチーズやチョコレートなどが携帯された。栄養価が高く、保存が利き、スタミナ源として重宝されたためだ。発酵の技術は戦闘目的でも活用され、ワインの含有物質は精密兵器に結びつき、芋の発酵は戦闘機の燃料開発に利用された。
★小泉武夫著 文春新書・1155円
『病が分断するアメリカ 公衆衛生と「自由」のジレンマ』
平体由美『病が分断するアメリカ 公衆衛生と「自由」のジレンマ』(ちくま新書・968円)は、米国社会の抱える問題が公衆衛生にどのような影響を与えてきたかを分析する。公衆衛生とは人々の健康を維持するための公共的取り組みを指すが、実際には社会各層の格差や分断、それぞれが共有する歴史が様々な形で影を落としてきた。コロナ禍では、「自分たちのことは自分たちで決める」原則の下、政治的分断がマスクやワクチンの扱いで州毎(ごと)に差を生んできたと指摘する。
公衆衛生の手段は、皆の利益にもなれば社会を分断することにもなり得る。適切に利用されうるか否かは政治とコミュニケーションのあり方にかかっているという平体氏の指摘は、日本に対しても重く響く。
★平体由美著 ちくま新書・968円=朝日新聞2023年9月9日掲載