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「バスキア」書評 鮮やかな色調と流れる死の空気

評者: 横尾忠則 / 朝⽇新聞掲載:2023年09月30日
バスキア 光と影の27年 著者:パオロ・パリージ 出版社:花伝社 ジャンル:芸術・アート

ISBN: 9784763420756
発売⽇: 2023/08/07
サイズ: 21cm/131p

「バスキア」 [著]パオロ・パリージ

 泥をひっかけた縞(しま)柄のダークスーツのズボンの裾からのぞいた汚れた裸足が、床に転がった椅子に乗っかっている。こんな写真が「ニューヨーク・タイムズマガジン」の表紙を飾って、若き黒人アーティストは一躍スターダムに躍り出てしまった。
 コンセプチュアル全盛・1980年代、世界同時多発的に、新表現主義絵画が台頭。その最先端に、「SAMO©」と名乗る正体不明のグラフィティアーティストが登場。この謎のアーティストが後のバスキア。彼は「SAMO©は死んだ」と死亡宣言をして、有名になることを目的に、ポップアーティストのキング、アンディ・ウォーホルに急接近。この若きスターに対して、ウォーホルも利用価値あり、と採算。2人のコラボレーションが美術界の檜(ひのき)舞台に登場した。だが、こうした2人の新旧スターの売名行為は惨憺(さんたん)たる悪評に終わった。
 だけどバスキアはメアリー・ブーンとラリー・ガゴシアンの二大スターギャラリストの尽力によって、陰りが見えてきたにもかかわらず商業的には大成功。
 本書は27歳で夭折(ようせつ)したバスキアの光と闇をイタリアのイラストレーターが漫画のコマ割り形式で、赤、青紫、緑、薄黄の4色でグラフィカルな伝記的絵物語に仕立てた。色は鮮やかだが、全体に薄暗い死の空気が全ページに立ちこめている。
 バスキアの搔(か)きむしったようなあのギザギザのストロークは、本書では姿を消して、なんとなくミニマルでポップな色面絵画のように非感情的でフラットである。だからか、バスキアの資質とは逆のアンニュイな雰囲気から余計に死の空気が流れてくるのかもしれない。
 冒頭いきなりバスキアの死から始まって、最後はニューヨークから愛の逃避行を決行して、恋人と2人で浄土的なハワイの楽園でバスキアの薄幸を暗示しながらこの物語は終わる。
    ◇
Paolo Parisi 1980年生まれ。イタリアのグラフィックデザイナー、漫画家。著書に『コルトレーン』。