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「ツユクサナツコの一生」書評 「そうだよね」と思わせる魅力

評者: 有田哲文 / 朝⽇新聞掲載:2023年09月30日
ツユクサナツコの一生 著者:益田 ミリ 出版社:新潮社 ジャンル:コミックエッセイ

ISBN: 9784103519829
発売⽇: 2023/06/29
サイズ: 21cm/269p

「ツユクサナツコの一生」 [著]益田ミリ

 日常生活の中のちょっとしたいいこと。あるいはちょっと引っかかること。見過ごさずに拾い上げ、読者に追体験させてくれる。益田ミリさんの漫画の魅力である。次はどんな「そうだよね」があるだろうかと、新しい作品に手が伸びる。
 本作の主人公ナツコは32歳の漫画家で、昼間はドーナツ店でアルバイトをしている。世はコロナ禍にあり、職場で接するのもマスク姿だけ。仕事をやめた同僚を街で見かけたナツコは遠くから叫ぶ。わたし、マスクを取ったらこんな顔だから。またね、元気でね。ありそでなさそで、でもあったら素敵な光景である。
 ナツコがコツコツ描いた作品が、劇中劇ならぬ漫画中漫画として登場するのも楽しい。そんな日常が続くが、やがて読者を大きく裏切る展開が待っている。長年の益田ファンであるほど、評価は分かれるかもしれない。しかし本を閉じるころには、自分の日々の暮らしをぎゅっと抱きしめたくなるのだ。