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宮下志朗さん「文学のエコロジー」インタビュー 書物史描き逆境から守る

宮下志朗さん

 文学とエコロジー。一見、奇妙な取り合わせだ。 

 「文学とそれを取り巻く『環境』がどう変わってきたか、知ってもらえればと思いました。今は自明とされる『作者』や『著作権』も、さかのぼると興味が出てくるのでは」

 英雄をたたえる口誦(こうしょう)文学や写本、「聖なるいとなみ」だった中世の読書、ルネサンス人の「政治的な生き方と隠遁(いんとん)生活」に書物、印税や文学賞、電子書籍……。10年前に書いた放送大学教材から、他の担当者による五つの章を外し、2章を加えた。

 「ずっと関心があった『書物史』のまとめです。逆境にある文学を守りたいという思いも込めました」

 10代で読んだ大江健三郎のエッセーから、その師・渡辺一夫の著作と出会い、東京大学で二宮敬(たかし)にフランス文学を学ぶ。テーマは16世紀の作家フランソワ・ラブレーと決めた。

 「でも、真正面から攻めるには巨大な存在なので、からめ手で、作品が生まれた都市を調べた」のが、第1作『本の都市リヨン』だ。フランス南部の商都が、出版センターだった時代を描いた(大佛次郎賞)。

 かつて自らも夢中で読み、歴史的名訳といわれた『ガルガンチュワとパンタグリュエル物語』全5巻の渡辺訳だが、学生には難しくなってきた。「これでは途切れる」と思ったころ、新訳を頼まれた。2005年から12年までで完成。「スラスラできた。ラブレーみたいな書き方が好きなんですよ。一目ぼれしたんです」

 同じ時期、モンテーニュの『エセー』全7巻も訳した。「理屈が通るよう書かれているが、難しかった」という。足かけ12年で完結させた。

 なぜ訳がわかりやすいか聞くと、「頭が悪いから」と即答。「自分がきちんとわかったふうにしか書けないな。古典はなかなか生きのびられないから、入り口を広げないとね」(文・石田祐樹 写真・慎芝賢)=朝日新聞2023年10月14日掲載