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浅川智恵子の歩みとメッセージ「見えないから、気づく」など高谷幸が選ぶ注目新書 

『見えないから、気づく』

 行動力の人だ。浅川智恵子(聞き手:坂元志歩)『見えないから、気づく』(ハヤカワ新書・1034円)は、世界初の実用的音声ブラウザをはじめ多くのアクセシビリティ技術を開発してきた著者がその半生を語る。自身、14歳のときに失明。その後、IBMの研究所に勤め、視覚障害者の情報アクセスを助ける技術を生み出してきた。その間に、大学院で学び、米国でも研究した。これらの経験から、著者はイノベーションを生み出す多様性の重要性や、公平性・包摂性もあわせて実現するために、自らが変化し挑戦する必要を説く。新たな道を切り拓(ひら)いてきた著者から未来に向けた力強いメッセージだ。
★浅川智恵子(聞き手:坂元志歩) ハヤカワ新書・1034円

『地の底の笑い話』

 未来は、過去の集積に見出(いだ)される場合もある。上野英信『地の底の笑い話』(岩波新書・1100円)は1967年出版の限定復刊本だ。40年代後半から筑豊の炭鉱で働き、後に谷川雁(がん)や森崎和江と「サークル村」を創刊したことで知られる著者は、炭鉱が閉山となった後もヤマを訪ね、老坑夫たちの話に耳を傾けた。それを元にした本書は、炭鉱という、近代の矛盾を凝縮した場所に生きぬき、あるいは命を落とした人びとの生の刻印である。同時にそれは、「地底」に隠された「新たな思想の火種」として未来の私達(たち)に差し向けられている。
★上野英信著 岩波新書・1100円=朝日新聞2023年11月4日掲載