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「UFO VS.調査報道ジャーナリスト」書評 米政府も認める「異常なる現象」

評者: 椹木野衣 / 朝⽇新聞掲載:2023年12月02日
UFO vs.調査報道ジャーナリスト 彼らは何を隠しているのか 著者:ロス・コーサート 出版社:作品社 ジャンル:哲学・思想・宗教・心理

ISBN: 9784861829741
発売⽇: 2023/09/27
サイズ: 19cm/417p 図版16p

「UFO VS.調査報道ジャーナリスト」 [著]ロス・コーサート

 「UFO」についての本を書評するのは難しい。オカルトの定番中の定番だからだ。もっとも、長く根強い心霊現象への関心に比べると、随分前からUFOは旗色がよくなかった。UFOはいつの頃からか「空飛ぶ円盤」と同義となり、暗黙のうちに宇宙人の乗り物とされてきた。それなら身近で起こる心霊現象のほうがまだ現実味(?)がある。だが、それがそうでもなかったのだ。
 本書はオカルト本の類ではない。豪州を代表するジャーナリストが、UFOなるものに正面から取り組んだ「ガチ」のノンフィクションである。わたしは知らなかったのだが、UFOには現在、米国防総省により「UAP」という新たな呼称が与えられている。これは「Unidentified Aerial Phenomenon」の略称で「未確認空中現象」と訳されている。が、もとを正せばUFOも宇宙人の乗り物ではなく「未確認飛行物体=Unidentified Flying Object」だった。つまりUAPでは未確認な現象=脅威という側面が強調されている。
 しかも、この未確認の現象は近年ますます増え続け、昨年末にはとうとう「異例の法案」としてバイデン大統領の署名のもと正式な法律となった。国防権限法(NDAA)のもとに成立したこの第1673条「未確認異常現象の報告手順」(UAP法)は、UFOがUAPからさらに別の意味で――「空中」ではなく「異常=anomalous」と呼ぶ時点で――新たな「UAP」へと推移しつつあることを意味する。
 このUAP法について著者は「議会が内密の聴聞会で、この問題に真剣に向き合おうと思わせられる何かをつかんだと見ていいのではないか」と書いている。この「何か」がいったい、「何」であるのかについて、著者は幾重にも慎重に明言を避けている。だが、それがいかに「異常」な現象であるかについては、本書を読めばもはやあきらかだ。
    ◇
Ross Coulthart 新聞、テレビの調査報道で活躍。豪州報道界の権威「ウォークリー賞」を5度受賞している。