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下町の古本屋を生き、書いた 青木正美を悼む

 東京の下町・葛飾で古本屋を営みながら、『古本屋群雄伝』(ちくま文庫)や『戦時下の少年読物(よみもの)』『昭和の古本屋を生きる』(ともに日本古書通信社)など、40冊を超える著書を出した青木正美さんが、8月2日に亡くなった。90歳だった。

 古本屋を始めたのは1953(昭和28)年、20歳の時。売れるのは娯楽雑誌や大衆小説、講談本だった。65年、神田の古書市場に行くようになり、世界が広がる。高価な古書に戸惑いつつ、「負けん気と若さ」で踏ん張り、「私の遅い大学ともなった」と、のちに振り返っている。商売の一方で、島崎藤村ら作家の肉筆原稿や書簡を集め、無名の人々の日記を『戦時下の庶民日記』(日本図書センター)などにまとめた。

 著書9冊と、「日本古書通信」の長期連載を担当した編集長の樽見博さん(69)は言う。

 「古本屋として成功しただけでなく、自分が扱ってきた少年読物や初版本、肉筆物の値段の変化を記録し続けた。そして、ふつうなら忘れられてしまうような、下町の古本屋たちの評伝を書いた」

 「人々が捨てたものの中に、価値あるものが残っていて、それを見いだす目が青木さんにあった。いい時代だったし、時代が生んだ人だと思う。でも、誰もができることではない。彼の力あってのことですよね」

 ひたすら集め、商いをして、書き続けた。そこにしかない人々の歴史が残った。(石田祐樹)=朝日新聞2023年12月16日掲載