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知らない誰か 柴崎友香

 さっきから某SNSが不具合らしく表示されない。しばらくすれば戻るだろうと思いつつ、このまま直らないかもとうっすら考えている。

 しばらく前に、そのSNSは信じられないような大金を持った起業家に買収され、以来、使いにくく魅力がなくなる変更ばかり繰り返してきた。フェイクや差別的な投稿に対する対策もなくなっていって、「治安が悪くなった」感じがある。このままいっそなくなってくれたほうが、と思ってしまうのは、私が長らくそのSNSに依存状態だからだ。

 手に持ったスマホで、つい、見てしまう。仕事の告知にいちばん便利というのもあるし、親近感の湧いているリアルでは知らない人のアカウントもたくさんある。

 それに、ちょっとした困りごとがあるときにいちばん助かるのがこのSNSなのである。アップデートしたらある機能が使えなくなったとか、電車が遅延しているとか、有用な情報に辿(たど)り着くには、このSNSが速い。大手検索サイトはコピー記事みたいなのが大量に表示されて、肝心の情報にはなかなか到達できなかったりする。

 困ったことを検索すると、ちょっと前に同じことで困った人が書いている。それに対して、こうすればいいですよ、私もこのあいだ同じことがありました、と返信があるのが見つかる。このひと月のあいだにも、そのおかげで私のとてもニッチな困りごとが二つ解決した。

 それはつまり、誰かがすでに同じことで困っていた、そして助けた人がいたということだ。私だけじゃなかったんだ、とほっとするし、助けてくれた人がいたことにも感動する。このSNSは短文しか書けないから話し合いには向いていなくて対立が深まることが多いのはほんとうによくないと思う。だけど、遠くの(近くにいるかもしれない)知らない人のことを知って、助けられることも多々あった。

 そしてこの原稿を書いている間に、元に戻っていた。=朝日新聞2023年12月27日掲載