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明治期の空気感伝わる「女形と針子」 谷津矢車が薦める新刊文庫3点

  1. 『女形と針子』 金子ユミ著 小学館文庫 803円
  2. 『螢(ほたる)と鶯(うぐいす) 鳴神黒衣(なるかみくろご)後見録』 佐倉ユミ著 祥伝社文庫 792円
  3. 『おくり絵師』 森明日香著 ハルキ文庫 836円

 今回は「芝居の要素を含む書き下ろし文庫時代小説」で選書。

 時は明治、旅芝居を続ける一座「花房座」東京興行の直前、人気の若女形が失踪、その姉で座頭の娘である百多(ももた)が代役となり舞台を踏むに至る(1)は、明治期の文明開化、演劇改良といった新しい風が吹く演劇界を背景に、百多が女であることを知る針子の暁との関わり、ある人物を巡る因縁が物語に絡む。「虚構」に身を置く人々の逡巡(しゅんじゅん)や、新旧の価値観が交ざり合う時代の空気感が本書の読み所。

 鳴神座の狂言作者・石川松鶴(しょうかく)に拾われ、狸八(りはち)と名付けられた男が、芝居小屋の中で奮闘する姿を描く(2)は、大店育ちで掃き掃除すら満足に出来なかった一人の男が自らの居場所を見つけ出すに至る、自分捜しの物語。それと同時に、戯場を支える役者、狂言作者、裏方たちの群像劇でもあり、様々な人が係(かか)わって成り立っているがために生じる戯場の魔と蠱惑(こわく)を芝居の裏側から活写した、芝居内幕ものの側面も。

 絵師、歌川国藤の下で死に別れた父と同じ絵の道を目指すおふゆを主人公にした(3)は、一人の少女の成長を丹念に追う少女小説の香り高い時代小説。男性社会の束縛の中で唇を結んで修業しつつ絵師として励む場を見つけ出そうと奮闘し、昔馴染(なじ)みの役者、三代目富沢市之進に恋をするおふゆの姿がいじらしい。劇中、おふゆが絵師として取り組む死絵(しにえ)(追善絵)は役者絵の一種でもある。本作は芝居の外側から間接的に芝居を描いた小説でもある。=朝日新聞2024年1月6日掲載