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たあ先生の絵本「はっはっはくしょーん」 笑いで子どもの心を照らしたい

『はっはっはくしょーん』(KADOKAWA)より

全国の保育園・幼稚園の子どもたちと作った絵本

――動物たちがくしゃみするタイミングに合わせ「はっはっ」をためて、それから勢いよく「はくしょーん」と何度も口に出すのが楽しい絵本『はっはっはくしょーん』(KADOKAWA)。「第13回MOE絵本屋さん大賞2020」の新人賞第3位にも輝いた。作者は2人の絵本ユニット「たあ先生」。その一人である絵本作家あいはらひろゆきさんは2022年6月に逝去した。だが本作は、今でも全国の子どもたちを魅了し続けている。今回は、絵を担当したちゅうがんじたかむさんに話を聞いた。

 登場する動物は4匹の精鋭、カメ、キリン、ゾウ、ライオン。いたずら好きの謎の生物「くしゃむしくん」がぶーんと次から次へとこの動物たちの鼻に止まる。すると動物たちはむずむずしてこらえきれず、くしゃみをするという物語です。しかも、くしゃみの瞬間、動物に変化が起きる。たとえばカメは甲羅が吹っ飛んでいくというような(笑)。そんなオチも、動物ごとに何パターンも考えました。

『はっはっはくしょーん』(KADOKAWA)より

 動物の選定にあたっては、何カ月もかけて、あいはら先生とつながりのあった全国の保育園・幼稚園の子どもたちからデータを集めたんです。読み聞かせをしてもらい、年齢別と動物別にどんな反応があったのかアンケートをとって、子どもたちの好みを結構厳密に把握しました。最初のコンテ段階ではウサギとかシマウマ、ヒツジなども含め20匹くらい候補があったんです。あいはら先生と僕も読み聞かせに行ったんですが、子どもたちは大笑い! 僕は音楽バンドをやっていてウケないことはありましたが、読み聞かせは絶対スベらない。もう楽しくて。最終的には0歳から年長まで約1000人の子どもたちに手伝ってもらいました。

登場する動物を何にするか、さまざまなパターンを考えたという=石井広子撮影

――「くまのがっこう」シリーズ(ブロンズ新社)で、ストーリー性のある絵本を書き続けてきたあいはらさんは趣向を変えて、「絵本作家かがくいひろし先生の『だるまさんが』(同)のようなユーモアに富んだ絵本を書きたい」と語っていたという。

 そこで私たち「たあ先生」は、「子どもが笑う絵本を作りたい」というコンセプトでスタートしました。あいはら先生は、誰でもつい腹の底から笑ってしまうような、笑いの絵本というジャンルを開拓したかったのだと思います。その一作目が本作でした。もともとシリーズ企画だったため、後に『ひっひっひくしょーん』(KADOKAWA)、『へっへっへくしょーん』(同)と続けて出しました。タイトルの冒頭を、は行の「は」から始め、「ひ」と「へ」から始まるものも考えたというわけです。

 ちなみに「たあ先生」の由来は、僕の名前、たかむの「た」とあいはら先生の「あ」を合わせたものです。あいはら先生とは僕が所属する会社の代表を通したご縁でしたが、知り合ってまもなく、とんとん拍子で絵本が完成したんです。ノリが良くて仕事が早く、化学反応が起きたような感じであいはら先生のリズムに乗り、もうとにかく楽しかったのを覚えています。

読み聞かせに行った保育園で、あいはらひろゆきさん(左)と=写真は本人提供

小さな子が繰り返し読んでも楽しめるように

――視覚的にどう変化させるかが、赤ちゃんにも楽しんでもらえるポイントだという。

 基本的には、ターゲットを赤ちゃんから2歳の小さな子どもにウエイトを置いて、その子たちにも読み聞かせできるように作ったので、単純であること、わかりやすさを追求しました。動物についてあまり知らなくても楽しめるように。たとえば、シマウマには縞があることを知らないと、たとえ縞が消えちゃったとしても、何が起きたのかがあまり伝わらないんですよね。子どもたちのアンケートで一番人気だったのはライオンでした。一番インパクトがあってバランスがいいんです。動物界の王様で強いというイメージがある。でも、「くしゃむしくん」が鼻に止まるとくしゃみをこらえてこらえて、崩壊寸前に。そして最終的には情けない様相と表情になってしまう。それがわかりやすくて面白いかなと思ったんです。

ソフトパステルで描いた原画。ライオンの意外な姿が子どもたちにウケた。「次はどうなるのかな?」と想像をふくらませるところから、コミュニケーションが生まれるという=石井広子撮影

 この絵本は、親と子、子どもと子どものコミュニケーションツールのような側面を持っていて、感情を共鳴できるところが気に入っています。子どものコミュニケーションに参加できる仕事にやり甲斐を感じますね。人の人生に参加できるんですから。

――本作が2020年1月に出版されてすぐに、日本でも新型コロナウイルスが蔓延し始めた。暗雲が立ち込める中、それでも多くの読者に愛された理由とは。

 あいはら先生と二人で、もうがっくり肩を落としましたよ。パンデミックなのに、くしゃみをする本を出してしまって、正直、もう終わったと思いました。でも、読者に受け入れられたのは、帯に描かれたマスクが効いたのではないかと思っています。コロナ禍が始まる前年の夏ごろには既に、当時の編集者が表紙の帯にマスクの絵を考えていました。でも僕とあいはら先生はマスクの絵に反対していたんです。せっかく大きく開けているライオンの口を隠すなんて、と(笑)。でも、今となっては「くしゃみするときは、マスクつけるんだよ~」と子どもたちに堂々と教えることもできます。

シリーズ3作すべてにマスクを描いた帯がかけられている=石井広子撮影

――「読み聞かせは何度もしてほしい。子どもにせがまれて、さっきも読んだじゃないというのは、やめてあげてほしい」というのが、あいはらさんのメッセージだったという。

 親としては子どもに早く寝てほしいと焦ってしまったり、1回読んだ箇所は読み飛ばしてしまったりすることもあるかもしれません。だからこの絵本では、簡単に楽しめるように、文字を少なくしています。すると「次どうなったかなあ?」などと、読み聞かせのアドリブも利かせやすいんです。

 読者からの反響では「何回も読んでいます」というのが一番うれしいですね。飽きがこないっていうのは。本作に「もう1回が止まらない」というキャッチコピーも作っていただいたんですけど、まさにそんな読者がいてくれることは、作り手として冥利に尽きます。ある保育園に読み聞かせに行った時は、この絵本をもとに子どもたちが遊びを作ってくれていたこともありました。「くしゃむしくん」を描いた紙を指に巻いて、ぶーんと近づいた相手にくしゃみをさせるという遊びです。こうして遊びながら読み聞かせするとさらに楽しくなりますよ。

『はっはっはくしょーん』(KADOKAWA)より

絵本で笑顔のひととき届けたい

――これまでイラストやキャラクターを主に描いてきたちゅうがんじさんにとって、本作が絵本デビュー作だった。初めての領域で非常に新鮮だったという。新たな挑戦を経て得た境地とは。

 絵本の絵は、上手い下手ともまた違う。限られたスペースの中で、いかに無駄を省き、いかに表現するかが大事だと思っています。僕は、固定観念にとらわれず物語に合わせて新しい描き方にどんどん挑戦していきたいタイプなので、あいはら先生と出会い、一緒に作った本作は、絵本づくりにハマるきっかけになりました。

 実はあいはら先生がこの絵本のアイデアを思いついたのは、家族で訪れたハワイの海で、一人で釣りをしている時だったそうです。だからこの絵本が生まれたのは、ハワイの太陽のおかげと言ってもいいかもしれない。確かに、太陽のように明るく、笑いで子どもたちを照らす絵本になったと思います。ライオンの形も太陽みたいですしね。

 ある研究によれば、愛想笑いも本気の笑いも、脳内的に幸せを感じる量としては同じらしいです。だからとにかく毎日どんな時も、たくさん笑って元気になってもらいたい。僕は絵本を通して、子どもも大人も人生の中で、笑う時間を増やす手助けができたらうれしいなと思っています。

『はっはっはくしょーん』(KADOKAWA)より