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逢崎遊さんが「仮面ライダー電王」を好きになったわけ

©GettyImages

 父親は映像作品を好んで見ていた。映画も、アニメも、ドラマも、基本なんでも観る。我が家では面白そうなテレビ番組を録画して、全員が集まる夜に視聴するのが一つの習慣だった。当然、チャンネルの主導権は父親にあり、私達三人兄弟は「なんでそれが好きなん?」といいたくなるような番組を見せられていた記憶がある。
 その中でも印象に残っているのが仮面ライダーシリーズだ。これも私達子供の希望ではなく、父親が録画したものを黙々と観ていた。だから私は幼少期から一人暮らしを始めるまでの間に放送されていた、『仮面ライダークウガ』(2000年)から、『仮面ライダーエグゼイド』(2016年)までを全て覚えている。父親はよく晩御飯の後に畳の上で座布団を折り曲げ横になり、ピーナッツをツマミに酒を飲みながら鑑賞していた。

 シリーズの中でも私が最も好きだったのは、『仮面ライダー電王(デンオウ)』(2007年)だ。
『仮面ライダー電王』は、物語の設定や構成が面白かったのと、何よりバイクではなく電車に乗る仮面ライダーという特性が、色物で終わらなかった点が素晴らしかった。まぁデンライナーの先頭車両の中に入っているバイクで電車を操縦するという二度手間な設定があるのだが、そのカオスな感じもたまらない。仲間のキャラクターも個性的で、観ていてずっと飽きなかった。『仮面ライダーW(ダブル)』(2009年)の身体を左右に真っ二つにしながら繰り出すライダーキックも、『仮面ライダー鎧武(ガイム)』(2013年)の二枚目ライバルがどう足掻いてもバナナなところも好きだったが、やはり特別好きなのは世代的にも『仮面ライダー電王』だった。17年経った今でも思い出せるほど主題歌を歌っていたし、印象的な決め台詞もよく真似ていた。

 といっても、その『仮面ライダー電王』が放送された当時はまだ小学4年生だったので、具体的にどこが良い! だなんて説明できるわけじゃない。直感的に面白い! と感じていただけだ。その抽象的な感想はどんなに鮮烈でも、幼少期の美化された思い出の中に消えていく。
 それでも今こうして「あれは面白かった」と思い返せているのは、当時の父親が「これは面白いなぁ」と物語を称賛していたからだ。威厳のある父親がそこまで言うこれは、相当な作品なんじゃないだろうか。……父親を唸らせた仮面ライダーは覚えておかなきゃ、この仮面ライダーはただの子供向けの特撮ではないのだ、とすら思った。子供からすれば、親の称賛する作品はアカデミー賞受賞みたいなレベルの認識なのだ。

 成長するにつれ、周囲は仮面ライダーの話なんてしなくなった。でも、私自身は高校生になっても父親が視聴するついでに仮面ライダーを観ていた。それくらい身近な存在だった。上京してからはテレビを観ない生活が続いているけれど、もし私に子供が出来たらきっと仮面ライダーを観せて……と、書いている段階でふと気づいた。
 もしかして父親は、自分の子供に観せるつもりで仮面ライダーを観始めて、そこからずっと観続けているのかな、なんて。子供を育てていた時の習慣が、そのまま自分の趣味になることは往々にしてあるのかも知れない。
 私がその立場に共感するようになるまで、あとどのくらいかかるだろうか。
  それまで仮面ライダーには、人知れず平和を守り続けてもらいたい。