ISBN: 9784791776160
発売⽇: 2023/12/26
サイズ: 19cm/245p
「政治と政治学のあいだ」書評 学問と経験 越境者からの提言
官僚上がり、記者上がりの政治家は、取材で何人も会ったことがある。しかし政治学者出身というのはあまり見かけない。研究と実践の溝は意外と深いのか。政治学者が選挙に出て、そこでの経験をまた学問的に考える。そんな越境者である著者は、存在自体が興味を引く。
のっけから展開されるのが、どぶ板選挙肯定論である。あいさつ回りを重ね、頭を下げ続ける選挙手法はインテリなら眉をひそめそうだが、この人は違う。選挙とは、政治家に地域をはいずり回らせる工夫である。無理やり人々に接触させ、市民社会の「合理性」に肉薄させるのだと、マルクス主義思想家グラムシまで持ち出して論じるのだ。
著者は2021年、衆院広島2区に立憲民主党から立候補し、落選した。その後雑誌などに寄せた文章に書き下ろしを加えたのが本書である。選挙運動の体験記としても、現代日本政治の分析としても読める。その両方にまたがり、出色なのが「維新の会」の手ごわさについての考察だ。
自民党が下野した1993年以降、日本の世論に「保守・旧革新・改革」の3極構造ができたと著者は見る。「改革」への支持は細川、橋本、小泉の各政権が手にしてきたが、いまは維新が取り込む。何をどう改革するか、もともと複雑な話なのに、維新は「身を切る改革」と単純化し、有権者が受け入れやすいようにした。維新は「改革」の生んだ鬼っ子だという。
しかしながらこの「身を切る」への支持はなかなか強いというのが、著者のどぶ板での実感である。では立憲民主党はどうすべきか。維新とくっつくのではなく、改革志向の政策の数々を包み込むべきだと著者は訴える。その意気や良し。しかし政策提言としてはまだまだ粗削りだ。政治と政治学のあいだでこれから肉付けしていく、そんな宣言だと受け取った。
政治に少し希望を持ちたくなる本である。
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おおい・あかい 1980年生まれ。広島工業大非常勤講師。著書に『武器としての政治思想』『現代日本政治史』など。