まずは写真だ。次に、添えられたキャプション。その瞬間、心をつかまれる。言葉を読み終えても写真は終わらない。瞳の中のフラッシュのように、むしろ一層、光り出す。
キャパ、カルティエ=ブレッソンらが創設したマグナム・フォトは写真家の協同組合として、紛争の現実、人間の現在進行形の姿を伝えてきた。本書は創設75周年を記念して刊行された。分厚く重たいがそれは時の重みでもある。会員が、別の会員の写真を6枚選び、解説する。仲間の写真を見る眼差(まなざ)し、率直な感想が伝わってくる。例えば、私がもっとも衝撃を受けた写真は(権利の関係上ここには掲載できないが)、狙撃の準備をしていた兵士が射殺されてのけぞっている姿を写したロレンツォ・メローニの一枚で、言葉を失った。だが、その写真を選んだラファウ・ミラハは、メローニ写真の特徴について「圧倒的な平穏さ」と書いた。平和とは言えない状況にあえて持ち込まれたその言葉は、私をさらに驚かせ、深く心に焼き付けられた。写真がもたらす、言葉の力。
高価な本だが、ある会員の言葉が参考になる。彼は19歳の頃「とある大型書店のフロアに座り」マグナムの本をパラパラめくっていて、「天のお告げ」のように大好きな写真家に出会ったって。=朝日新聞2024年3月16日掲載