18日に都内のホテルで開かれた伊集院静さんの「お別れの会」には各界から約400人が集まった。作家、作詞家として活躍、ゴルフや麻雀(マージャン)など多くの趣味に興じた73年の人生を、参列者がエピソードを交えて振り返った。
祭壇にはダビンチの「最後の晩餐(ばんさん)」を背にした全身写真が遺影として飾られていた。7年前に伊ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会を訪れた際の、お気に入りの写真。会の冒頭、新社会人などに向けた新聞広告で20年以上にわたる付き合いのあったサントリーホールディングスの佐治信忠会長が献杯した。
作家の桐野夏生さんは、20年以上にわたり文学賞の選考を共にした思い出を語った。「選考会では常に真摯(しんし)でフェア。私がある作品を酷評した際、厳しくいさめられた。作品にはいろんな読み方があると教えてくれた恩人です。作家は人のほころびを見つける仕事でもある。ほころびる原因は何か、ほころびは繕えないのか。ほころびの先にある死というものを常に見つめておられたような気がします」
衆院議員の小泉進次郎さんは8年前から2人で続けていた勉強会で説かれた、政治家としての二つの心得が忘れられない。〈外国に行ったとき、その国のために尽くした人のお墓参りをしなさい〉〈政治家はいろんなお祝いをされる機会がある。だけど世の中には誰からもお祝いをされない方がいることも忘れるな〉。「先生からは多くの教えをいただいた。これからも守っていきたい」
他にも騎手の武豊さん、作家仲間の阿川佐和子さん、北方謙三さん、大沢在昌さん、ミュージシャンの大友康平さんらが次々に思い出を語った。会の最後は31年連れ添った妻の西山博子さんがあいさつに立った。
「私たちとは違う道を独りで歩いているような不思議な人。つらいとき、悲しいとき、どうやり過ごすかを聞いたとき、〈知らん顔するんだよ、そこを素通りして知らん顔するんだよ〉と。だから私も、今日まで知らん顔をして過ごしていました。ただ一緒にいれて良かったと喜べばいいんだと。私も一生懸命生きて、今度は私があなたに会いに行きます」(野波健祐)=朝日新聞2024年3月27日掲載