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「科学文明の起源」書評 変革支えた「欧米以外」を見直す

評者: 石原安野 / 朝⽇新聞掲載:2024年03月30日
科学文明の起源 近代世界を生んだグローバルな科学の歴史 著者:ジェイムズ・ポスケット 出版社:東洋経済新報社 ジャンル:自然科学・科学史

ISBN: 9784492800959
発売⽇: 2023/12/06
サイズ: 20cm/450,91p

「科学文明の起源」 [著]ジェイムズ・ポスケット

 ガリレイ、ニュートン、アインシュタイン。物理学に憧れを抱くようになった中高生時代、教科書に載っていたのは欧米の偉人。その慧眼(けいがん)と発想に憧れる一方、人種や地域に依(よ)らない物理学のグローバル性に惹(ひ)かれていった。
 大人になり科学者になれば、大きな科学成果がどこにでも生まれ得るわけではないこともわかる。科学的発見は通常、何もないところからは発生しない。新たなデータが古い考えの綻(ほころ)びや矛盾点をあぶり出し、そこから新たな理論が構築されるからだ。
 新しいデータや考え方の包含が鍵となる。故に、ヨーロッパで近代科学が幕を開けた。経済や軍事力。政治と教育、そして情報収集力。これらの力関係に不均衡があるとき、データは一方向に流れ、それらを一つの理論としてまとめ上げた者のみが後世に名を残す。本書で著者は、欧米以外の地域における科学的活動の歴史を見つめ直し、それらが如何(いか)に近代科学の黎明(れいめい)と興隆を支えてきたのかを示す。
 例えば、ニュートン。国家の威信をかけた科学支援目的の世界航海が行われた17世紀、生涯イギリスを離れず孤高の天才と称される彼の眼差(まなざ)しは世界中で取得される科学データに向けられていた。アフリカや南アメリカで行われた天体観測や振り子の実験。結果を受け入れ、自身の理論で説明することで大きな変革を成しとげる。
 そして、ニュートンの『プリンキピア』から遡(さかのぼ)ること約140年、科学革命を起こしたコペルニクスの『天球の回転について』。この画期的な学説もイスラム天文学の考え方を包含する。
 近年、中国、インドはもとよりアラブ諸国やアフリカで科学の拠点が整備されている。サーバーから溢(あふ)れんばかりのデジタルデータをみれば、もはや情報の流れは一方向ではない。この新しい科学の時代、変革は思いがけない所から始まるのかもしれない。
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James Poskett 英ウォーリック大准教授(科学技術史)。2012年に英国科学作家協会の最優秀新人賞受賞。