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宮田愛萌さん「あやふやで、不確かな」インタビュー 恋愛小説2作目「人の気持ちは分からない。だから書く」

宮田愛萌さん=篠田英美撮影

伝える努力をする人たちのお話

――今回の小説を書いたきっかけを教えてください。

 「人の気持ちって分からないな」と思ったことが始まりです。

 言葉にして気持ちを伝えたとしても、私が思った通りに相手が受け取ってくれるとは限らないし、相手は相手のフィルターを通して物事を見ているから、同じものを見ていても同じ感情にはならない。それでも伝えないと、人とコミュニケーションは取れないんですよね。だから、伝える努力をする人たちのお話を書けたらいいなと思って、本作を書きました。

――どこにでもいる普通の女の子・冴をめぐる小説ですが、冴を話の中心にしようという構想は最初から?

 はい。最初は冴は出さずに、冴の周りの人を書こうとしていたんですが、最後に冴の話も書いちゃいました。

――「友人が恋人と別れたことをきっかけに、自分が恋人のことを愛しているかわからなくなった成輝」、「逆に恋人との絆を強くした智世」などと章ごとに登場人物が出てきますが、どのエピソードが苦労しましたか?

 一番苦労したのは、一つ目の成輝の話です。登場人物全員と分かり合えなくて。成輝の気持ちも桃果の気持ちも分からないし、なんなら伸もよく分からず、ギリギリ成輝の会社の後輩である山本が分かるぐらい。だから書くのに時間がかかりました。

――「分かり合えない」というのは?

 不安なら不安と言えばいいのに、なぜ言葉にしないのかが分からない。「なんか面倒臭いな」と思うのは分かるんですけど、人と人との関係だから自分がどうにかしないとどうにもならないじゃんと思うんですよね。成輝は結局全部受け身。私自身は割と自分でガツガツ動きたいタイプなので、受け身でいるのは耐えられないし、よく分からないです。

私は演出家。頭の中で稽古する

――それぞれの登場人物にモデルはいるのですか?

 特にモデルはいないですね。ただ、エピソード中に出てくる感情は、私が人と話しているときに受け取った感情だったり、聞いた話を元にして膨らませていじったりして作っています。

――では物語を書くときに、登場人物たちの気持ちを想像する。

 そうですね。書くときに思うのは、私が演出家だということ。例えば成輝の設定を役者さんに渡して、成輝を作ってきてもらうんです。私が書いている時間が稽古で、稽古のときに役者さんに動いてもらって、どうしてその動きをしたのか、どういう気持ちなのかを逐一聞いていく。

 それで「そんな動きになる?」とか「それは違くないですか?」と対話や喧嘩をしながら、物語を紡いでいくんです。まあ、全部私の頭の中での出来事なのですが。

――なるほど。そういった対話や喧嘩から生まれた描写なのですね。執筆期間はどれぐらいかかりましたか?

 およそ4カ月です。そのうち2カ月は成輝の話を書いていました(笑)。

――いつも執筆するときは、構想に時間をかけるのですか? それとも“稽古”に時間をかけるのですか?

 私は書くときにそれぞれの登場人物のプロフィール帳を書くんです。どこで生まれて、どういう家族関係で、クラスメイトはどんな人で、といったような。そのプロフィール帳は、今回は1日で全部作りました。それで、プロットを編集者さんに渡す際に、話の構成というよりは、どういうシーンを書きたいかという短編をいくつか書いてお送りしました。

「喪主になりたいの」にキュンキュン

――書いていて楽しかった章は?

 一番書いてて楽しくて、すぐに書き終わったのは、智世の章です。

 せっかく恋愛小説を書くのなら、少女漫画っぽいものを書きたいと思っていたんですね。でもどうせ王道は書けないから、せめて一編は胸キュン要素が詰まったものを書こうと思って。それが智世の章なんです。「みんなこの章を読んだら、キュンキュンが止まらないぞ」と思いながら書きました(笑)

――宮田さんとして一番キュンキュンする描写は?

 「喪主に、なりたいの」というプロポーズです。このセリフは、自分の中で最強のプロポーズだと思うし、みんながキュンキュンするだろうと思って書いたんですけど、友達に感想を聞くと、みんな「え?」と時が止まっていた感じで(笑)。どうですか?刺さらないですか?

――「人の気持ちが分からない」というところから書き始めた恋愛小説ですが、書き終えてみて今、どんなことを思いますか?

 書き終わった瞬間、もう一生恋愛は書かないと言っていたんですけど、でも、完成したものを読んで、しばらくしてまた別の恋愛も書こうかなという気持ちになっています。

 誰の気持ちも分からないし、人を好きになる気持ちはもっと分からない。「なんでこの2人は付き合っているんだろう?」と思いながらずっとこの作品を書いてきて、分からなすぎて、もう書けないと思っていたんです。でも、分からないなりに書くのも楽しいかなと思って。

――分からないものを分かろうとする好奇心のようなものでしょうか。

 そうかもしれないですね。「なんかよく分からないけど、こういうシーンっていいよね」という思いだけで突っ走ってみても、それはそれで読み物としては面白いのかなと思うんです。

本の仕事しか考えていなかった

――宮田さんご自身のことを聞きたいです。アイドルを卒業して、文筆家に転身した理由は?

 もともとアイドルを辞めたら、就職をしようと考えていました。学校の図書館か出版社で働いて、誰かに本を届ける仕事がしたいなと思っていたから。そうしたら、卒業のタイミングで小説を書くチャンスをいただいて。せっかくのチャンスでしたし、もし失敗してもきっとまた別の道があるだろうと思って、出来るところまでやってみようと思い、小説を書き始めました。

――もともと本にまつわるお仕事には興味があったんですね。

 はい。寧ろ本にまつわる仕事しか考えてなかったです。

 小学生の頃は翻訳家になりたくて、でも中学生になって、英語もフランス語もできないので翻訳家の夢を諦めて、編集者になりたいなと思ったんですね。でも、私は我が強いから編集は無理かなと思って……。それなら人に本を薦める営業の仕事や図書館の司書だったらできるかなと。大学も出版社の就職に強いと言われる国学院大学を選んで、日本文学を学んでいました。

 だから、アイドルになったのは本当にうっかりなってしまったと言いますか……。オーディションがあるから応募してみようかなと軽い気持ちで始めてみただけなんです。

――とはいえ、アイドルの活動も楽しかったと思いますが、ご自身としては振り返ってみてどうですか?

 そうですね。アイドルの経験が今にすごく活きているなと思います。

 私は中高一貫校出身で、周りに似たような子しかいないような環境で育ってきて、大学もみんな日本文学が好きな人たちばかりだったんですね。でも、アイドルになっていろいろな人たちと関わるようになって、全然違う世界があることを知るんです。

 「本を1冊も読まない」「久しぶりに本屋に行った」という人がたくさんいる。週8回は本屋に行く私にとって衝撃的でした。そういう人たちがいるということを知れたことも、そういう人たちに本を届けるにはどうしたらいいかなと考えるようになったことも、アイドルの経験があったからかなと思います。

「この本が1番好き」と言ってくれたら

――宮田さんの好きな作家さんは?

 江國香織さんと千早茜さんが大好きです。

 江國さんの『流しのしたの骨』は小学校4年生の頃からずっと一番好きな本。今でも読み返すと、涙が出てきてしまうぐらい好きな本ですね。私もそういう本が書けたらいいなと思っています。

 千早さんの本は夜が似合うと思うんです。寝る前に「今日はどれにしようかな」と選んで、結局全部読み通して、夜が明けてしまう。生々しい景色が浮かんでくる文章が素敵ですよね。私もたった一文で何かの景色が見えたらいいなと思って、小説を書いています。

――ちなみに本が好きになったきっかけは覚えていますか?

 幼い頃から母親が読み聞かせをしてくれてたらしいんですけど、私は覚えていなくて。あまりに私が読み聞かせをねだるので、母は読み聞かせをする代わりにひらがなを教えてくれて、家にある絵本や本にすべて振り仮名を振ってくれたんですね。

 「あとは自分で読んで」というスタイルになってからは、一人で黙々と本を読んでいました。物心つく前から本を読んでいたので、逆に本を読んでいない自分が想像できないです。

――今は文筆家として活動していますが、普段はどのように本を読むのですか?

 本を読みながらいろんなことを考えたり、本の世界に入って登場人物のことを考えたりしていると、素の自分に戻れる感覚になるんですよね。その感覚が好き。でも、自分の作品を書いているときは、あんまり世界観の強いものは読めなくて。何かと影響されやすいので、例えば1回読んだことある本などを読んだりしています。

 私の部屋の本棚には、今1900冊プラスアルファの本があります。2000冊を超えているというと家族に怒られるので“プラスアルファ”としていますが、実際は2200冊ぐらいかな(笑)。内訳としては、江國さんの本、千早さんの本、島本理生さんの本など、作家ごとのコーナーがあり、文庫本は出版社別に並べられています。漫画の単行本もありますね。

――今後の文筆家としての目標は?

 誰かが「この本が一番好き」と言ってくれたらいいなと思っています。例えば、私の書いた小説を読んで「こういう生活いいな」と思うのでもいいし、登場人物に影響されて何かを始める人がいてもいい。そういう思いを持ってくれている人が1人でもいてくれたらいいな。

 特に『あやふやで、不確かな』という小説は、「人間関係って難しいよね」と思っている人に読んでもらいたいです。読んでもらってもすぐ何か解決するわけではないんですけど、「そういうこともあるよね」という相談相手ぐらいにはなると思うので、気軽な気持ちで読んでいただけたらいいなと思っています。