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映画「朽ちないサクラ」主演・杉咲花さん×原作・柚月裕子さん対談 苦しくても、踏み出す勇気はとても必要

杉咲花さん(左)と柚月裕子さん=有村蓮撮影

泉は「一気に何かが着火する人」

――柚月さんの原作をお読みになった感想を教えてください。

杉咲花(以下、杉咲):一人の女性が公安の闇に立ち向かっていくという壮大なストーリーの中で、人の心の機微が静かに描かれている作品という印象を受けました。泉は大切な人を傷つけて、大きな失敗を招いてしまいます。そのことに対して自分なりの形でなんとか責任を取ろうとする姿を、私は見捨ててはいけないと感じました。人が他者を見つめる「まなざし」について考えさせられるような物語だなと。

――柚月さんは杉咲さんたちの演技をどうご覧になりましたか。

柚月裕子(以下、柚月):この小説を映像化するのはなかなか難しいんじゃないかなと思っていたので、役者の方のお名前を見た時は「みなさんがどのように演じてくださるんだろう」と、とてもワクワクしました。完成した作品を拝見して「すごい」と感じました。

――感情はあまり表に出さないけれど、胸に秘めた思いをもって事件の真相を知ろうとする泉をどのように深めていきましたか?

杉咲:まず原作を読み込みました。私は泉のなかの軸として、怒りや悲しみに敏感で、人の死や事件などの出来事に触れた時、一気に何かが着火するような人なのではないかなと感じて。泉が持って生まれた本質的なものが、次々と起こる事象によってあぶり出されていく物語なのだと。

苦しみながら進む姿は「泉そのもの」

――杉咲さんの中に「泉」を感じる瞬間はありましたか?

柚月:泉は自分がしてしまったことに対する責任から、迷いながらも「自分は何ができるんだろう」と突き詰めていくキャラクターとして書きました。自分に何かを課して、苦しみながらも真実を探そうと前に進んでいく姿勢が、杉咲さんが演じる泉にそのまま溢れていて「泉そのものだな」と感動しました。

(C)柚月裕子/2024「朽ちないサクラ」製作委員会

――杉咲さんの手元にある原作本には付箋がたくさん貼ってあって、ページもボロボロ! かなり読みこまれた形跡がうかがえます。

杉咲:この一冊に描かれている内容を映像に落とし込むにあたって、どのように脚色が行われていくのか気になっていました。自分が読んで印象に残ったところを監督やプロデューサーと共有し、自分たちの感覚を言語化していくことで、より物語への考えが深まって、どういうところにたどり着きたいのかが明確になっていくこともあると思うので、そういった時間を大切にしたいと考えていました。

 小説は、読み手がその人にしかない想像を巡らせて、そこに没頭していくことができるものですよね。それを映像化するということは、ある種ひとつ“姿”として提示することになるので、人によってはそれが答えになってしまうことでもあるからこそ、実写化の作品に出演する時はいい意味で緊張も大きくて。どこまで解像度を上げて、肉体を持って表現できるのかということにみんなで力を尽くしたつもりです。

柚月:ストーリーが「事件を追う」という非日常的なものを扱っている中で、読者の方が、ふと「あ、これは日常のことなんだな」「自分とそんなに遠くないところにある物語なんだな」と感じてくださったら嬉しいなと思っていました。杉咲さんが演じてくださった泉をはじめ、役者のみなさまがそこをしっかりと感じさせてくださったのが嬉しかったです。

磯川は泉を「人間に戻してくれる」

――映画では、萩原利久さん演じる磯川が、より泉を献身的に支え、事件の真相を追う手助けする役どころになっていましたね。

柚月:他のキャラクターもですが、それぞれがいるからそれぞれの役割が際立っていて、そのぶつかり合いが素晴らしかったです。泉はがむしゃらに進んで行くタイプだし、富樫と梶山のふたりはひと癖もふた癖もあるベテラン刑事。その中で、磯川はとてもあたたかい役割を担っていて、ひたすら泉に協力しながらも自身の強さを持っているキャラクターです。演じてくださった萩原さんはぴったりでした。

杉咲:原作でも、磯川は泉に「しっかり腹ごしらえしましょう」 とか「笑ってください」という言葉をかけているんですよね。そういった「生きること」に密接する要素がある言葉が自然と生まれる磯川という人物は、泉が忘れかけていたものを思い出させて、ちゃんと人間に戻してくれるような存在なのではないかと感じていました。

――泉を演じた今だからこそ、原作者である柚月さんに聞いてみたいことはありますか?

杉咲:私が原作の中で特に好きだったのが「目をきつく閉じた。瞼(まぶた)の裏に千佳の姿が浮かぶ。心の中で何度も千佳の名前を呼ぶ」という部分です。泉を演じる上ですごくヒントになって、その感覚を大切に持ちながら撮影に臨もうと思っていました。

柚月:私は杉咲さんが出演されたほかの作品も拝見しているのですが、演技にすごく惹かれるんです。と同時に「この感覚ってなんだろう、私の知っている感覚だ」と思っていろいろ考えてみたら、私が昔から好きな、惹かれる作家さんの書く文体から感じるものと似ているんですよね。「この文章にどれだけの知識が詰まっているんだろう。自分自身の考えがしっかりないと書けないだろうな」と思う時と同じようなものを、きっと私は杉咲さんの演技に感じているのだと思います。

 一瞬のシーンを裏に、どれだけその登場人物を読み込んでいるのか。例えば今作の場合「きっと泉ならこうするんだろうな」と、小説に書かれていないところまで考えに考えてくださった上で、役に臨まれたのかなと感じています。

正義と悪が「多様化」する時代に

――柚月さんは今作が映像化された意義をどうお考えですか。

柚月:どの作品もそうですが、特に『朽ちないサクラ』の主人公は捜査権限がない、一般的な人。そんな人が大変なものを背負って、その責任を取るために何かしなければと一歩踏み出そうとする姿、苦しみながらも「何かしなければ」という姿勢を描きたかったんです。スクリーンの中で、一生懸命苦しんで、もがいて、自分が思う道を貫き通そうとする人たちの姿に、きっと勇気が出たり「自分もがんばろう」って思ってくださったりする方が多いんじゃないかと。苦しくても、一歩を踏み出す勇気はとても必要だと思うので、今、この作品が実写化された意味はそういったところにあるように思います。

――柚月さんの作品は「警察ミステリー」が主ですが、そこを主軸にするのは何かご自身に課しているものがあるのでしょうか?

柚月:私自身「何が正義で、何が悪か」が分からないんです。現代の法に触れることはもちろん罪であるけれど、特に今は「社会の多様化」と呼ばれている時代。それぞれの正義があって、それぞれが価値観を持っていて、それを信じて過ごしている方が多い。そういった中で「これが正義でこれが悪だ」とはかんたんに決められません。その気持ちはデビュー当時から持っていて、例えば公安は「国を守ること」が正義なのか、それとも見る側を変えればまた形を変えた姿になるのか。そういった多角的な視点の作品というのを昔から描いているように思います。