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V林田さん「麻雀漫画50年史」インタビュー いつもジャンルの辺境に

V林田さん

 『哭(な)きの竜』や『アカギ』といったヒット作の陰で、あまたの作品が生まれては忘れ去られていった。そんな麻雀(マージャン)漫画の研究に10年以上の歳月をそそぎ、半世紀に及ぶ歴史を明らかにした。

 だが、著者はのっけから宣言する。〈麻雀漫画の歴史を見ることで、日本の世相が浮き彫りになる……などということは基本的にない〉。全編を貫くのは、わかりやすいストーリーに飛びつかない、地に足の着いた姿勢だ。

 1970年代にジャンルとして確立し、80年代から90年代にかけて黄金期を迎えた麻雀漫画。流行の背景には何があり、表現はどう変わってきたのか。膨大な雑誌や作品群を時系列でたどりながら、一歩ずつ全体像に近づく。

 「先入観に合う作品や事例だけをピックアップして、それっぽいストーリーを作るのはつまらない。理屈と膏薬(こうやく)はどこへでも付きますから」

 幼い頃から「気が多い」性格で、気になった物事についてあれこれ調べるのが好きだった。先行研究があれば満足するが、麻雀漫画は「わからないことだらけで、調べても情報が出てこない」。みずから漫画家や原作者にインタビューを重ね、2011年から同人誌で発表してきた。

 過去には、戦前になくなった私鉄や忘れられた作家について調べ、ウィキペディアに記事を書いていたことも。いつも他人がやらないような、ジャンルの辺境におもむく。

 「新発見がいくらでもあって楽しい」と語りつつ、後ろ向きな理由もある。「書くものに自信が持てなくても、ここにしかない情報があったら自分を許せる。書くからには勝っているところがほしい。変に負けず嫌いなんです」

 筆名の「V」は、高校時代の友人が気まぐれに付けた架空のミドルネームが由来。いまに至るまで変えることがない一途さとは裏腹に、大学卒業後は古書店員やライトノベル編集者などの職を転々とした。飲み会に出るのが嫌で会社を辞めたこともある。

 「あまりに社会性がなさ過ぎて、もう書いていくぐらいしかない」。後ろ向きが一回転して、前を向いている。(文・山崎聡 写真・鬼室黎)=朝日新聞2024年6月29日掲載